(最期については)雅楽(長男・21才)が手を握って、もう一方の手を私がさすっていて、玄兎が頭をなでて、也哉子がずっと話しかけている。そして也哉子がスマートフォンを持って、まだアメリカにいて間に合わなかった伽羅(長女・19才)の顔をお互い見せながらという感じで。で、私がもう一つ別の電話で、裕也さんの声を聞かせているという、まさにみんなで囲んだ状態で。裕也さんはとにかく、「もしもし、もしもし、おい、しっかりしろ」と言って…。その「しっかりしろ」という声をかけられると、樹木さんは雅楽の手をギュッと握って、もう意識と体の状態が離脱しているという感じはあるんですけども、やはり声は聞こえているようで。そういう反応だということを実況すると、裕也さんが「ありがとう、ありがとう」と。そのうちに、だんだん呼吸の間隔が空いていって、本当に静かにスーッと消えていくという感じで…。
亡くなった翌日、裕也さんには、他のかたがまだいらっしゃっていない昼間のうちに、ゆっくり対面してもらいました。裕也さんはとにかく「きれいだ、きれいだ」と言って、そして、「昔から美人だと思ってたんだよ」と言って、みんなで笑いました。そんな調子で、裕也さんから「ちょっとビールをくれ」と言われたので、樹木さんの使っていた赤いグラスに入れてお渡ししたら、「献杯をさせてくれ」と言って、「天に静かに召されますように」と言って献杯していました。
裕也さんと樹木さんは本当にダイヤモンドの原石のように、ものすごく計り知れない純粋さを持っている。それと同時に、本当にふたりにしかわからない独特の距離感というか、情の通い方というか、認め合い方というのがあって…。そしてとにかく、病室であの樹木さんが、とても素直に、「裕也さんに会いたい」と言った発言と、そして、樹木さんの体が焼かれて骨になって、それを皆さんにお手伝いしていただいて骨壺につめて、いざ蓋を閉めようとした時に、裕也さんが「ちょっと待って」と、そろそろと支えられながら出てきて、顎の部分の骨を箸でひゅっと拾って、ハンカチに包んで、ポケットにしまっていました。