一馬さんがバツイチなのは知っていたが、その理由が浮気だったこと。それ以降、結婚はしていないものの、付き合っているような女性は常時複数いて、お金にルーズな一馬さんは、50歳にもかかわらずほとんど貯金がないことを聞かされた。
「妊娠していなかったら、心が揺れていたと思います。私に見る目がないのは、まあ、そうかもしれないから……」
だが、美穂子さんのお腹には赤ちゃんがすでにいた。不安よりも、結婚したい、そして、彼の子供を産みたいという気持ちが勝った。勇気を出して一馬さんに不安を話すと、「今は美穂子ちゃんだけだよ。結婚したら貯金するよ」と、悪びれずに言われ、さらに不安が増したような気持ちになった。
そんな折、美穂子さんは久しぶりに姉に会った。ちょうど姉も、1年間付き合っていた彼氏と結婚を決めたというタイミングだったのだ。写真見せて! と美穂子さんが言うと、姉は、婚約者は公務員で安定していることや、いかに自分が愛されているかを力説した上で、「顔はカッコよくないんだよね」と前置きして、写真を見せてくれた。
「驚きました。これまでの歴代彼氏はみんなイケメンだったのに、そうじゃなかったから。はっきり言って、カッコ悪かった」
次に美穂子さんが一馬さんの写真を見せると、姉は、目を見開いた。
「へえ、年のわりにはかっこいいじゃん。まあ、この年でバツイチ独身ということは、絶対何かあるから美穂子は苦労するだろうけど、遺伝子的に、子供には期待できるよね」
帰り道、美穂子さんは思った。たくさんの恋愛を経て、最後に、堅実な男性を選んだ姉。それは、恋愛経験豊富な女が辿り着いた正しい結婚なのだろう。一方の自分はどうか。姉とは対極的な地味な青春時代を送り、30歳を過ぎて初めて出来た恋人と、結婚する。相手はダメ男かもしれないが、イケメンでスポーツマンで華やかな業界で働く人。
「私はこの人に賭けてみようと思いました。彼も、50代という年齢になったからこそ色々と落ち着いて、私みたいな地味な女を選んだんだと思うんですね。これはお互いにとって運命だなと。それに、この人の子だから欲しいし、この人に似てほしいとも思った。姉の言うとおり、お腹の子供は彼に似てくれればいいなと、思っています」
31歳、美穂子さんの新たな人生はまだ始まったばかりだ。