“0期”の膵臓がんという概念に否定的な医師もいる。菊山医師と、尾道総合病院の花田敬士医師らは、早期診断研究会というグループを立ち上げて、超音波内視鏡検査による早期発見の取り組みを進めているが、参加施設は全国に15しかない。
膵臓がん摘出手術の第一人者である、本田五郎医師(新東京病院・消化器外科)。6年前に、本田医師の手術を受けた女性(75)から話を聞くことができた。
「人間ドックのエコー検査で、気になるものが写っていました。私の弟が膵臓がんで亡くなっているので、心配した娘が本田先生のことを調べてくれたのです。膵臓と胆のうを摘出してもらいました。食事は以前と変わらず食べられますし、ゴルフもしていますよ」
この女性の膵臓がんはわずか5ミリ程度だった。執刀した本田医師はこう話す。
「0期のがんを手術することに対して、過剰診断、過剰治療という批判もあります。しかし、膵臓がんは0期で摘出する以外に、根治が期待できない手強いがんです」
膵臓がんのリスク要因は、前述の女性のように、「家族に膵臓がん患者」がいる人、そして「過度な飲酒の習慣」だ。
膵臓がんのリスクが高い人は、まずエコー検査やMRIを受ける。何らかの異常があれば、超音波内視鏡検査を受け、手術につなげる。そうした「膵臓がん検診」があれば、救われる命は数多くあるはずだ。
●取材・文/岩澤倫彦(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2018年10月12・19日号