トレーニングも鬼気迫る
「子供たちを見ている中で『ボクシングを続けよう』と決めました。どんな困難があってもボクシングを続けて、倒されても立ち上がり、ファイティングポーズを取って世界一を目指すことが、自分の仕事だと気づいたんです。これまでは『とにかく勝ちたい、勝って世界チャンピオンとして君臨したい』という一心で続けてきたボクシングを、これからは病気と闘う子供たちのためにも頑張ろう、そう思いました」
渡部は8月24日、紗月ちゃんの病気発覚後、初の試合に臨んだ。日本スーパーウェルター級暫定王座決定戦。試合に向かう渡部に「パパ、恐竜になってくるんだね」と紗月ちゃんは声をかけたという。紗月ちゃんにとって、「恐竜」は「強い」と同じ意味だった。
渡部は王座に返り咲いた。1ラウンドTKO勝ちだった。
「パパ、勝ったよ」。そう告げると、娘は満面の笑みを見せた。その試合後、渡部は娘が白血病に侵されていると公表した。
「今までの試合は自分の欲望のためでしかなかった。今やっと、『真のプロボクサー』になれたと思います。今のところ紗月の経過は良好ですが、いつ何が起こるかわからず、抗がん剤がダメになれば骨髄移植や他の治療法を選ぶ必要がある。でも、髪が抜けようが、顔がむくもうが、さっちゃんのすべてが愛おしい。娘のためなら、本当に何でもできる」
次の試合は12月20日の日本タイトルマッチ。紗月ちゃんも次の段階の治療がうまくいけば、自宅で年を越すことができるという。渡部は覚悟を決めた父の背中を娘に見せる。
■取材協力・撮影/ヤナガワゴーッ!
※女性セブン2018年11月15日号