その後、教官2人が競艇の基礎知識について講義しようとすると、数原少年は「知ってる」と先回りして解説をする。さらに「まくり」や「差し」といったレース展開についても詳しく話し始め、教官たちもその知識量に舌を巻き、ついにモンキーターンの許可が下りたのだった。
本番までの1週間、数原少年は自宅でレース映像を見ながら、タイミングよく立ち上がる練習を繰り返した。当日は2人乗りボートの前に数原少年が乗り、競艇選手が後ろで操縦。他の競艇選手が操作する2梃とレースし、実際のレースと同じく実況も行なわれた。前出・梶原氏が語る。
「撮影本番で立てなかった場合でも、そのまま放送するつもりだったので、数原くんには『一発勝負やからな』と説明していました。普段は手持ちカメラだけでロケをするのですが、モンキーターンをする瞬間に腰を上げるところをアップで撮影したかったので、スーパースローカメラもセット。中継車を含め100万円くらい経費がかかりました。『たった数秒のためにそこまで要るか?』と上司に難色を示されましたが、説き伏せました」
本番では、後ろの選手が『モンキーターン!』と声をかけると同時に数原少年はしっかり立ち上がり、その雄姿もスローカメラで鮮明に捉えられていた。レースも1着になり、局長を務める西田敏行もスタジオでVTRを見た後、涙をハンカチで拭いながら『大感動や』『素晴らしいね』と絶賛した。
あれから15年、デビュー直前の数原選手に当時の思い出を聞いた。
「怖かったという記憶はないですが、エンジン音がすごく大きくて『こんなに大きな音なんや』という印象は強く残っています。周りから聞いた話では、撮影が終わった後も『楽しかった』と繰り返し喜んでいたそうです」
来たるプロデビュー当日、数原選手には“奇跡”が待っていた。何と8日のレースには、15年前の撮影時に同乗し、後ろで操縦してくれた水野要選手(64)も出走することになったのだ。「師弟対決」を前に、数原選手が語る。