ノンフィクション作家の森達也さん(共同通信社)


「日本では昔から“空気を読む”ことが大事にされて多様性を認めず、不謹慎だったり足並みをそろえない者は許されません。安田さんも“渡航自粛の指示に背いた(場の空気を乱した)”からひどく叩かれたわけで、自己責任は“後づけの理由”だと、ぼくは思います。しかも残念なことに、最近はネットの匿名性が日本独自の集団主義と結びつき、犯罪被害者や生活保護受給者といった弱者へのバッシングが加速しています」

 こうした傾向は現在、世界中でも徐々に強まりつつあるという。

「先行きが不透明で不安と恐怖が蔓延する時代になり、“異質な者を排除して同質同士でまとまろう”という動きが世界中で出ています。そこでは善か悪か、右か左かという極端な二元論で敵と味方が二分される。この時、同質な者をまとめて敵と対抗するのに必要なのが独裁的なリーダーシップであり、アメリカのトランプ大統領や安倍首相が支持されるのはそうした理由からだと思います」(森さん)

 一方で、生きていくうえでは、自己責任をすべて否定できるわけでもない。

「自由な行動には責任が伴います」

 と語るのは、これまで4回にわたって北極圏を旅してきたノンフィクション作家で探検家の角幡唯介さんだ。

「例えば、北極を冒険していて外部と連絡を取れない状況では、自分で判断して次の行動を決定します。その時もしも判断を誤ったら、ぼくは死ぬかもしれません。自分の判断の責任を自分が取るという意味では、自己責任論は筋が通っています」

 ただ、角幡さんも日本人の「横並び主義」を実感する。

「日本人は、集団の論理に反する異分子に生理的嫌悪感を抱くところがある。多くの人は集団の中でさまざまなことをがまんして、大きなストレスを抱えながら生活しているので、好きなことをやっている人に対して、“好きなことで失敗したなら死んで責任取れよ”と思う。それがバッシングとして噴出するのでしょう」

 一方で中学1年男女が2015年に大阪府寝屋川市で連れ去られ、遺体で発見された事件や、2017年の座間9遺体事件のような凶悪犯罪や、レイプなどの性犯罪は後を絶たない。危険地域に赴くジャーナリストや冒険家が万全の準備をするように、一般人も日常生活においてリスクを避ける心がけが必要になる。前出の内田さんが語る。

「加害者が悪いのはもちろんですが、ぼくたち自身が身を守ることについて、真剣になる必要がある。原則として、武道では『座を見る 機を見る』という言い方をしますが、大切なのは、いるべき時に、いるべき場所にいて、なすべきことをなすことです。用事のない場所に長居したり、しなくてもいいことをするリスクをもう少し恐れた方がいい」

※女性セブン2018年12月13日号

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