ところで、今なお全国各地に送り付けられている「架空債券請求ハガキ」だが、いわゆるオレオレ詐欺(特殊詐欺)同様、これが「詐欺」だということは世間も広く認知されている。筆者が以前取材をした事情通は「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」で、何百、何千通の詐欺ハガキ送りそのうち一通が、例え10万円でも詐取できるなら意義はある、と答えたが、他の事情通の見方は別だ。
「これは新たなカモリストの作成のためにやっているのです。ハガキを出した先はすべてエクセルなどにデータとしてまとめられており、電話がかかってきたら、相手が送り先かどうか、名前と住所を確認します。これで何がわかるか? それは、あのようなハガキにも騙される可能性があるターゲットかどうか、ということです。住所と名前、電話番号のほかに、その人物が“騙させる可能性があるのか”はデータとしては非常に重要で、よりカモにしやすいターゲットを絞り込む作業ということになります」
九州北部地方に住む主婦の女性(60代)は、自宅に届いた架空請求ハガキに電話をしてしまったが、金を振り込むなどの指示を受けなかったと話す。
「身に覚えがないというと“データの間違いかも”ということで親切に応じてもらいました。預貯金はいくらあって、どの銀行に預けているのか、今まで詐欺にあったことはあるか…。金を振り込めなどの指示はなく、詐欺にあっている可能性もあるから、一度相談員が訪ねるかもしれないとまで言ってくれて」
このように、詐欺師たちは電話をかけた相手によって、フレキシブルに対応を変えている可能性がある。今すぐカネが取れそうなら、ありもしない口実を並べ立て入金するよう口座番号を伝えてくる場合もあれば、口座残高など巧みに聞き出して「次につなげる」為の情報収集にあたるのだ。
前出の主婦は、オレオレ詐欺に引っかかったこともなく、どちらかといえば慎重な方だと自負していた。しかし、相手が詐欺師ではなく相談できる相手だと勘違いした途端に、自らの個人情報を、それこそ詐欺師側が喉から手が出るほど欲しい情報を、べらべらと喋ってしまった。
詐欺の形は、ある意味で日々進化し、巧妙性が高くなっている。まずはこのような「隙」を作らないことが、詐欺事件の被害者にならないための大前提だろう。