◆「戦争カード」は使えない

 トランプ大統領は2017年8月30日に〈米国は北朝鮮と対話をし続け、この25年間法外な金額を支払ってきた。対話は解決策ではない!〉とツイートしているが、残念ながら対話しか解決策はない。

 さらに、2017年10月7日には〈歴代の大統領や政権は、北朝鮮と25年間話し合いをしてきて、合意に達したり、多額の金が支払われたりしたが、効果がなかった。合意は、インクが乾かないうちに破られ、米国の交渉担当者はばかにされてきた。たった1つのことだけが効果があるだろう〉とツイートしているが、「たった1つのこと」が武力行使を意味しているとすれば、それは無謀な選択だ。

 結局、トランプ大統領は過去25年間と同じことを繰り返すしかない。トランプ大統領にその気がなくても、金正恩がその気にさせる手を打ってくる。ICBMを撃たれてしまったら黙っているわけにはいかなくなる。

 さすがのトランプ大統領も、「戦争カード」が使えないカードであることは2017年に分かったはずだ。

 もし「戦争カード」が使えるのなら、1953年の朝鮮半島休戦後に、米海軍電子偵察機が北朝鮮空軍戦闘機に撃墜され乗員31名が死亡した事件(EC-121偵察機撃墜事件)や、米海軍情報収集艦が北朝鮮海軍艦艇に拿捕され乗員82名(1名死亡)が長期間抑留された事件(プエブロ号事件)では、核兵器の使用まで検討されたにもかかわらず、一発の銃弾も撃たないまま北朝鮮に譲歩して終わったのは何だったのか……ということになる。しかも、プエブロ号事件では、米国は北朝鮮への(しかも北朝鮮側が作成した)「謝罪文書」に署名してしまっている。

◆まずは朝鮮戦争を完全なる「休戦」にすべき

 トランプ大統領は過去25年というが、米国は朝鮮半島休戦後から65年間も同じ事を繰り返していることに気付かなければならない。休戦したはずの朝鮮戦争では「平時」にもかかわらず、少なくとも1020回の戦闘が行われ、死亡した米兵は80人(韓国兵は405人以上、北朝鮮兵は857人以上)にのぼる。繰り返すが、この数字は休戦協定締結後の戦闘で死亡した兵士の数だ。

 北朝鮮の「非核化」の前に、朝鮮戦争を「終戦」にするほうが先だろう。それ以前に、北朝鮮の休戦協定違反が43万回にものぼるわけだが、「終戦」の前に、休戦協定を北朝鮮軍と韓国軍双方が遵守し、名実ともに「休戦」を実現しなければ、「終戦」など絵に描いた餅にすぎない。

 韓国の文在寅大統領は金正恩との朝鮮戦争の「終戦宣言」を望んでいるようだが、韓国と北朝鮮の二国間で「宣言」したとしても何の意味もない。韓国は休戦協定の署名を大統領が拒否したため休戦協定の当事国ではないからだ。

◆歴史から学ぶことの大切さ

 米国も韓国も、北朝鮮との茶番めいた会談はやめて、実のある交渉を行うべきだろう。歴史から得られた教訓を生かさない交渉を続けていても何も前進しない。何も持っていなかった小国である北朝鮮は、歴史から学び、東西冷戦期の米国とソ連、そして中国とソ連の狭間で侵略されることもなく生き延びてきた国だからだ。

 このままでは、北朝鮮に踊らされただけで終わることは目に見えている。もちろん日本も他人事ではない。日本は、歴史から何も学ばない米国と歩調を合わせていても、何も進まないことを学ぶべきだろう。

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