『ダルちゃん』作者のはるなさんとカリスマ店員の新井見枝香さんの対談が実現


──資生堂のカルチャー情報発信サイト「ウェブ花椿」では、恋愛や結婚、仕事と常に選択に迫られ、常日頃から悩んでいる女性たちが共感できる漫画を、かねてからウェブに掲載していた。

はるな:花椿の編集長から、サイトには詩を投稿してくる女性が多いと聞いたんです。文章を書くことを生業としない学生やOL、主婦など、市井の女性の中に、溢れる創作意欲を持つ人がたくさんいるということを知りました。その時、詩を書くってどういう欲求なのか、このテーマを突き詰めてみたいと思いました。

◆普通の人に擬態する。その葛藤に共感

──主人公の苦しみの原点には、この世界にそぐわない自分との葛藤がある。

はるな:普通の人と同じようにできない自分はおかしい。だから、普通の人に“擬態”しよう。でも、擬態すると自分が本当は何を考えているのかわからなくなってしまう…。こういう悩みや葛藤って、多かれ少なかれ誰もが持っているんじゃないかと。どんな人にも、素の自分と社会での自分の齟齬はあると思う。飲み会の雰囲気に合わせて、思ってもいないことを言ったり、楽しんでいるふりをしたり。だから、擬態することを特別なこととしては描いていないんです。あくまで、詩を書くに至る葛藤の一要素。

新井:でも読者は、この“擬態する”という点に自分を重ねるかたが多いみたいですね。男性読者にも、そういう感想を持つかたが多い。でも私が惹かれたのは、自分を幸せにするのは誰かの存在ではなく、自分にしかできないと、ダルちゃんが気づいた点。最初は、自分を殺してでも、彼氏に合わせようと、笑顔で無理してパンケーキを食べるんですね。その時のダルちゃんの顔が怖かった(笑い)。最終的には、書きたいという気持ちを選んだ。この部分が重要でした。

はるな:20代女性に向けて書いたんですが、男性も読んでくださっているんですね」

新井:むしろ、40~50代の男女に響くんじゃないでしょうか。何かを踏み越えて覚悟を決めた人がこの作品を読むと、これでよかったんだ、って救われる。

はるな:20代の、まさに今、悩みの渦中にいる人には、むしろ説教クサい作品だと嫌われていないか心配だったんです。たしかに、葛藤を通り越して今、楽になった40~50代のかたに読んでもらった方が、深くわかってもらえるかもしれませんね。

新井:人の感想なんて気にする必要はないと思いますよ。好きだろうが嫌いだろうが、“引っかかる”ことに、本が存在する意味があると思うんです。私も、登場人物には感情移入できなかった。具体的にどこがいいと、言葉にするのは難しい。でも本当のことが書いてあるな、と思ったんです。本を読むことで何かを得るとか、何かを学ぶのではなく、これは真理だ、と思わせる力がこの本にはあると思います。いい本って、よくも悪くも人をかき乱すものなんですよね。読む時の状態で、違った意味で捉えられるし。

はるな:想定外の視点でおもしろがってもらえたことがうれしいです。次は誰にも共感してもらえないようなスゴイ悪女の物語を書いてみたいです。

※女性セブン2019年2月21日号

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