そうした細心の注意を払ったうえで行われてきた皇室外交の影響もあり、「戦争を起こさない」という明仁天皇の最大の課題は、見事に達成されることになりました。たとえ隣国に対して挑発的な発言をする政治家がいても、日本には、ひたすら平和を願う天皇がいて、その天皇が国民から圧倒的な支持を受けているという事実が、国家間の緊張を和らげる上で大きな効果をもつからです。
昨年12月の誕生日会見で、明仁天皇は次のように述べられています。
「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵しています」
“安堵”という言葉に、みずからの最大の責務を無事果たすことができたという、実感が込もっています。
在位30年式典のお言葉では、ご自身ではなく美智子皇后の作られた歌を紹介されています。
〈ともどもに 平らけき代を 築かむと 諸人のことば 国うちに充つ〉
明仁天皇にとっては、おそらくずっと美智子皇后の言葉こそが、国民の声の代表だったのでしょう。歌を紹介した後、こう続けておられます。
「全国各地より寄せられた『私たちも皇室と共に平和な日本をつくっていく』という静かな中にも決意に満ちた言葉を、私どもは今も大切に心にとどめています」
そこには皇室と国民が手を携えて、平和を守っていくのだという強い願いが込められています。