不安やストレスというと、心ばかりに注目しがちだ。もちろん心の持ち方も大事なのだが、下手をすると自分を責め、ますますうつに陥ってしまいかねない。
体にいい刺激を与えることで、心も立ち直ってくるという経験は、ぼくにとって感動的だった。不安に縮こまった心をほぐすには、体をほぐしてやるといい。心と体はつながっているのだ。
48歳でパニック障害になったことは、ぼくの人生にとって意味があることだった。ちょうど中年クライシスの真っただ中。医療費抑制政策のなかで、施設を新たに作り、人員も増やしながら、黒字経営にしようと綱渡りのようなことをしていた。このままだったら、過労死していたかもしれない。
でも、パニック障害になって、自分はそんなに強い人間ではないことに気づいた。がんばるだけではダメだと考えるようになり、書いたのが『がんばらない』(集英社)だった。幸いなことに多くの人に読まれ、共感された。
その後、院長職を辞し、CEO(最高経営責任者)を経て、名誉院長になった。チェルノブイリやイラクでの医療支援にも力を入れることができるようになり、世界が広がった。
鎌田のバージョン2.0の人生は、パニック障害の体験によってつくられた。現在、パニック障害に苦しんでいる人には、必ず治るということ、そして、すでに新しいスタートを切っているのだということを伝えたい。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。
※週刊ポスト2019年4月5日号