「彼の生涯は現場労働者に対する差別への恨みや自分を顧みない大卒組への怨念を感じさせ、そのルサンチマンや純粋な義憤が当初は松崎を革命に向かわせたとは思う。
ただ権力はいずれ腐敗するのも世の常で、日産ではゴーン前会長ばかりか元組合指導者・塩路一郎までが同様の末路を辿り、昨年はJR東で3万5000人近い脱退者が出たほど組合離れも進んでいる。このような組合不信が続けば、誰が労働者の権利を守るのか、今こそ組合の存在意義について考え直す時期なのかもしれません」
かつて〈権力は肥大化したら傲慢になる〉と言って闘争を挑んだはずの松崎が、その権力に溺れてゆく皮肉。が、あくまで本書に書かれたのは平成の出来事であり、ごく昨日の話なのだ。
【プロフィール】まき・ひさし/1941年大分県生まれ。早稲田大学第一政治経済学部卒。1964年日本経済新聞社入社。国鉄担当、ベトナム特派員、社会部長等を経て代表取締役副社長。その後、テレビ大阪会長。著書は他に『サイゴンの火焔樹』『不屈の春雷──十河信二とその時代』『満蒙開拓、夢はるかなり』等。松崎の訃報は3度目のホノルルマラソン挑戦で訪れたハワイで聞く。「疑惑のコンドミニアムがあったハワイでね」。163cm、61kg、A型。
構成■橋本紀子 撮影■黒石あみ
※週刊ポスト2019年5月17・24日号