現地でプライシック医師を含む2人の医師と別々に面接し、最後の審査も通過した。
当日の朝、タクシーで郊外にあるライフサークルの施設に向かった。そこで多くの書類にサインさせられた後、プライシック医師は表情一つ変えずに「ベッドに移りましょう」と促した。
ライフサークルでは、点滴の中に致死薬を入れ、そのストッパーを患者自らがはずすという方法で、自殺幇助が行なわれる。
警察に提出するためのビデオを撮影しながら、プライシック医師は名前、生年月日、ここに来た目的、死にたい理由という4つの質問をする。最後に「ストッパーを開ければどうなるかわかりますか」と聞き、小島さんは「はい、私は死ぬのです」と英語で答えた。「死にたいのならストッパーを開けてください」と言われ、小島さんは一瞬の迷いもなくストッパーをこじ開けた。
恵子さんは止めようとしたのか、「あ~」と手を伸ばし、体だけ前のめりになりながら思いとどまり、「ミナちゃん、ありがとう!」とその日、一番の大きな声を出した。小島さんは二人の姉に「本当にありがとう。こんな私の世話をしてくれて。本当にありがとう」と微笑んだ。貞子さんは妹を直視できないまま鼻をすすり続けていた。
それまでの取材では、安楽死を選んだ人に前日に初めて会って、翌朝に立ち会うだけだった。ショックではあるが、その人の背景も知らないし、心情もわからなかった。