さて、こうした発生確率を見るうえで、注意すべきことがある。いくつかの出来事が重なった複雑な出来事の発生確率を考える際には、それぞれの出来事はお互いに影響し合わないか、つまり無関係かどうかという点だ。無関係であれば、それぞれの出来事の発生確率を掛け算したものが、それらの出来事すべてが発生する確率に等しくなる。
先ほどの災害や事故などの発生確率で、交通事故での負傷と、航空機事故での死亡が無関係な出来事であると仮定すれば、30年の間にその両方に遭遇してしまう確率は、0.00048%(=24%×0.002%)となる。これは、約21万人に1人の確率であり、このようなことは、かなり小さな確率でしか起こらないと言えるだろう。
しかし、それぞれの出来事が無関係でない場合には、単純に発生確率を掛け算しても正しい答えは得られない。
例えば、交通事故での負傷と、交通事故での死亡とでは、どうだろうか。この2つはどちらも交通事故を原因としていて、無関係な出来事とは言えないだろう。通常、交通事故による負傷の程度がひどい場合に、死亡に至ってしまうものと考えられる。
この場合、30年間で交通事故での負傷と、交通事故での死亡の両方をこうむる確率は、0.048%(=24%×0.20%)と計算してはいけない。死亡が負傷の延長線上にある、つまり死亡する人は負傷もしているとすれば、両方をこうむる確率は、死亡の確率と同じ0.20%と見るのが妥当だからだ。これは500人に1人の確率だ。交通事故での負傷と、航空機事故での死亡の両方に遭遇する確率に比べると、だいぶ高いと言える。
ただし、現実の社会では、それぞれの出来事が完全に無関係だと言い切れることは少ない。つまり、確率の掛け算ができないことが多い。例えば、
・1週間後に、株価の上昇と金利の上昇がいずれも生じる確率は、それぞれの確率の積(掛け算の答え)と見るべきではないだろう。
・ある人がこの先5年間に、高血圧と脳卒中の両方にかかる確率は、それぞれの確率の積ではないだろう。
・プロ野球で、あるチームが、セ・パ交流戦に優勝することと、その年の日本シリーズに進出して日本一になることを、両方達成する確率は、それぞれの確率の積ではないだろう。
・今後10年間に、アフリカの砂漠面積の拡大と日本の台風到来数の増加が、両方生じる確率は、(明確に言い切れるものではないものの)グローバルな気象動向を踏まえれば、それぞれの確率の積と見るべきではないだろう。
最後に、出来事の発生確率に関して、次のような笑い話があるので紹介する。