とはいえ昔の話ではないか、と、リサさんは納得がいかなかった。過去の恋人がいてもおかしくない年だし、誰にだって、一つや二つ、若気の至りはあるだろうと。しかし和也さんは、別れたいという意思を変えなかった。そして言った。「僕の見る目がなかったね。君を誤解していたみたい。美人だけど、古風な人だと思っていた。そこが好きだった。女を売るような仕事をする人と、家族になる自信はない。僕の家族も嫌がると思うしね」
◆差別ではなく、好みの問題
かつて、女性アナウンサーが、ホステスのアルバイトをしていたことを理由に内定を取り消され、会社を提訴する事件があった。そのとき、その会社に対し、職業差別だという批判の声が挙がった。リサさんとの「結婚取り消し」について、和也さんはどう考えているのか。話を聞くことができた。
「誤解していただきたくないのですが、僕は、水商売という仕事に差別意識は持っていません。だから、水商売をしていたからといって、就職差別はあってはならないと思う。ただ、自分の妻には嫌なんです。それは好みや価値観の違いであって、差別ではないのではないでしょうか。
これは想像に過ぎませんが、あのまま付き合い続けていても、結局、別れていたんじゃないかな。僕も結婚に焦っていて、彼女の中身がよく見えてなかったと反省しているんです」
好みや価値観の相違が、結婚前に明るみになってよかったと考えることもできるだろう。しかし、あの一夜がなければ、二人は幸せな結婚を送っていたかもしれない。
リサさんはキャバクラで働いていたことに後悔はないし、恥じる気持ちもないという。ただ、次に付き合った人には自分から告白するかと問うと、否定した。
「だって、自分の過去をすべて共有することはできないですよね? 水商売を否定されたことより、彼がそんなにも過去にこだわる人だということに、私はショックを受けました。今の私を見てくれていない。やっぱり悪い意味で保守的な人だったんですね。次は未来志向の人と出会いたいです」