雲研究者の荒木健太郎さん

新海:雨粒が地表に落ちてできる波紋が特に興味深い。雨の量が少ないと、雨粒は目に映らないのに、水面に幾何学的な円だけを広げていきます。一方で、雨粒が大きいと水面にしぶきがはじけて、ミルククラウンの王冠のようなものができる。その王冠がはじけてできた粒が、もう1つの波紋を作る…。作品内ではそうしたカットまで細かく描き込みました。

荒木:ああいう波紋はどうやって描くのですか?

新海:いろんな手法があります。基本的にアニメーションは1秒間に24枚の絵を描くので、1コマ1コマ波紋を描くこともあるし、3DCG(3次元コンピュータグラフィックス)を駆使することもあります。

 実際に頑張っているのはアニメーターのスタッフたちですが、これだけ波紋表現と雨粒表現を追求しているアニメーションは、ほかにはないはずです。

劇中で描かれている「かなとこ雲」。成長した積乱雲の頂上部分が広がって平らになっている(C)2019「天気の子」製作委員会

荒木:雨粒の形にもこだわっていますよね。雨粒って頭がとがっている、しずくの形のようなイメージが一般的ですが、本当は落ちてくる時に空気抵抗を受けるからおまんじゅうみたいな形になって、大きくなりすぎると分裂するんです。

 作中では、最初に陽菜ちゃんが空を晴れにする場面で、おまんじゅうのような形の雨粒が風を受けて揺らいで、かつ分裂する表現までしっかりと描かれていて驚きました。

新海:それは最初からおまんじゅうをイメージしたのではないんです。気象学の専門知識があったわけではなく、人間の目でとらえたイメージを大事にした結果だったと思います。アニメーターの想像力が、現実と合致したんですね。

落下時に空気抵抗を受けておまんじゅうの形のようになった雨粒(C)2019「天気の子」製作委員会

【プロフィール】
◆新海誠(しんかい・まこと)/1973年2月9日生まれ、46才。長野県出身。2002年、監督・脚本・美術・編集などの制作作業をほぼ1人で行った短編アニメーション『ほしのこえ』で鮮烈なデビューを果たし、数々の賞を受賞した。その後もきめ細やかな映像美とセンチメンタルな脚本で観客の心を打つオリジナル作品を次々と発表。2016年に公開された『君の名は。』は記録的な大ヒットとなり、『千と千尋の神隠し』(2001年)に次ぐ邦画歴代2位の興行収入を記録した。

◆荒木健太郎(あらき・けんたろう)/1984年11月30日生まれ、34才。茨城県出身。雲研究者。気象庁気象研究所研究官。学術博士。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事した後、現職。防災・減災に貢献することを目指して、豪雨・豪雪・竜巻などの激しい大気現象をもたらす雲の仕組み、雲の物理学の研究に取り組んでいる。著書に『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)などがある。

撮影/田中智久

※女性セブン2019年8月8日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン