「たとえば10人の野手に対し、全員に同じ打ち方を指導するコーチだってこの世界にはいます。そのうちのひとりでも大成したら、その指導者は名コーチと呼ばれるでしょう。だけど、残りの9人の野球人生は終わっているかもしれない。そういう指導は僕にはできない。結局、選手それぞれにあった技術を見極めて伝えていくことが僕らの役割ではないでしょうか」
苦労人の平石は一見、イケメンで温厚そうな印象を受ける。だが、そうした世間のイメージと監督としての顔は少し違う。
「僕はめちゃくちゃ短気ですから。技術的なミスには何も言いませんが、カバーリングとか、基本を怠ったら、厳しい言葉を投げかけます。年上のコーチに対しても同じ姿勢で、思ったことは言うようにしています」
平石が誰より時間をかけて指導したのは、2015年のドラ1・オコエ瑠偉だ。高卒ながらジーンズ姿で入寮した“新人類”には、平石も二軍監督時代から手を焼いた。
「PLの後輩とは対極に位置する選手ですよね。僕もPLがすべてとは思っていないし、オコエ自身が野球以外のことも勉強しなければいけなかったのは事実です。しかし、こちらから固定観念を一方的に押しつけてしまうと、彼の良さは消えてしまう。あの独特なスケール感は、絶対になくしちゃいけない。そこに関しては気をつけました。いや、今も気をつけています」
◆「怪我」「控え」の経験が活きる
連敗を止めた日の試合前、平石は則本に駆け寄り、「連敗のことは気にしなくていい」と告げた。
「ノリに連敗を止めて欲しいのは当然だし、誰よりノリがそれを意識している。責任感が強いノリに、改めて『連敗を止めてくれ』なんて声をかけたら、むしろあいつの首を絞めることにつながるかもしれない。キャンプ中に右ヒジの痛みを訴えて、手術を決断して、リハビリを懸命に頑張って、ようやく帰ってこられた。純粋に野球を楽しんで欲しかった」