貸借対照表や損益計算書をつくることはできても、そこから何を読み取るかは経験やノウハウが必要だ。大手企業数社で経理部長を務めた後、「フリーランスの経理部長」として活動し、企業へ出向いての講演も多数行う前田康二郎氏はこう言う。
「取引先の企業の決算書を読み解ける経理がいるような会社は、経営者にとって心強いはずです。私の知る経営コンサルタントたちは、『バックオフィス(人事や経理などの管理部門)が強い会社で潰れた会社は聞いたことがない』と異口同音に言いますよ。決算書の数字を見れば、その会社がどこにお金をかけていて、どこにかけていないかがわかる。つまり、経営方針が読み解けるのです。
経理の仕事で間違った数字ができてしまうと、有能な経営者でも判断を誤ってしまいます。処理をミスしなくても、経費の費目が違うだけで認識の間違った数字ができてしまう。それくらい会社の数字は大事なのです。多くの会社の社長は現場出身で、そこまで会計に詳しくありません。経理を最大限に活用すれば経営にプラス面が多いのに、できていない企業が多いのが実情です」
前田氏によると「ベテラン経理部員は、若手データアナリストや駆け出しの経営コンサルタントより会社にとってよほど有用」だが、「経理部員自身でさえ、そこまで経理の重要性ややりがいを認識できているのは半分ぐらい」だという。
ドラマのように取引先と直接対峙することはまずないだろうが、経理は経営判断に直結する数字をつくったり、取引先の会社の数字を読み解いたりする、重要な仕事であることは確かなようだ。どんな仕事もそうかもしれないが、経理の仕事も、おもしろがれる人にとってはやりがいを感じられる、なかなか楽しい仕事であるに違いない。
●取材・文/岸川貴文(フリーライター)