芸能

NHK『だから私は推しました』が秀逸なドラマと呼べる理由

番組公式HPより

 ドラマ制作者は様々な制約の元に作品を生み出している。各局が鎬を削る各クールのラインナップのなかで、注目を集めることは簡単ではない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
『だから私は推しました』(NHK土曜午後11時半)が、夏のドラマの中で異彩を放っています。「地下アイドル」の「推しオタク」の世界を描き、一部のコアなファン向けのドラマと思われがち。ところが、さすが森下佳子書き下ろし脚本です。根底にはしっかりと普遍的なテーマが横たわっています。「生きづらさを抱えた人が、自分の居場所を探し続ける」というテーマ性が。「特殊な地下アイドル世界」と、「普遍的な承認欲求、居場所探し」がない交ぜになりつつ、ドラマツルギーを作り上げています。

 主人公は、結婚直前にふられてしまったOL遠藤愛(桜井ユキ)。落ち込んでいる時にたまたま地下ライブに遭遇、アイドルグループ「サニーサイドアップ」に出会う。中でも特に、歌もダンスも下手な栗本ハナ(白石聖)に自分を重ね感情移入。「助けてあげたい」「私がいなきゃ」と「沼落ち」し「推し」に、つまり熱狂的ファンになる、という筋立て。

 しかし、それだけではありません。毎回「警察での取り調べ」シーンで始まるのが意味深です。「なぜそんなことをしたのか」と問いつめられる愛。何らかの犯罪が起こった後らしい。つまり、地下アイドルのシーンは「回想」という構成になっているわけです。という謎解きミステリーも上手に使い、アイドルやオタ世界に拒絶感を持つ視聴者すらもドラマへ取り込んでしまう戦略。ここにも「特殊=オタク世界」と、「普遍=謎解きのスリル」とがうまく織り交ぜてあります。

 脚本もさることながら、このドラマで光っているのが二人の女優です。

 まず、今回が連続ドラマ初主演という桜井ユキさん。これまでは美人系の役が多く、前クールの『東京独身男子』では斎藤工や滝藤賢一のお相手として登場しました。そのスレンダー美人の桜井さんが、しかし今回は「オッサン」化しているから面白い。オタクの飲み会では周囲から「オバハン」と呼ばれていますが、化粧もファッションもそっちのけで女子度ゼロ、アイドルに入れあげて熱心に「推しごと」する姿が「オッサン」に見えてくる。美形から三枚目へ、なったことのない人物へと、桜井さんが大きく跳躍しています。

 もう一人注目株は、地下アイドル・ハナを演じる白石聖さん。握手できる地下アイドルの距離の「近さ」をリアルに体現しています。踊りも歌も下手で人見知りで不器用。ぎくしゃくした素人っぽい“地下感”を上手に出し、しかし少しずつ変化し成長していく様も見え隠れする。

関連記事

トピックス

上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン
ラオス語を学習される愛子さま(2025年11月10日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまご愛用の「レトロ可愛い」文房具が爆売れ》お誕生日で“やわらかピンク”ペンをお持ちに…「売り切れで買えない!」にメーカーが回答「出荷数は通常月の約10倍」
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《10代少女らが被害に遭った“悪魔の館”写真公開》トランプ政権を悩ませる「エプスタイン事件」という亡霊と“黒い手帳”
NEWSポストセブン
「性的欲求を抑えられなかった」などと供述している団体職員・林信彦容疑者(53)
《保育園で女児に性的暴行疑い》〈(園児から)電話番号付きのチョコレートをもらった〉林信彦容疑者(53)が過去にしていた”ある発言”
NEWSポストセブン
『見えない死神』を上梓した東えりかさん(撮影:野崎慧嗣)
〈あなたの夫は、余命数週間〉原発不明がんで夫を亡くした書評家・東えりかさんが直面した「原因がわからない病」との闘い
NEWSポストセブン
テレ朝本社(共同通信社)
《テレビ朝日本社から転落》規制線とブルーシートで覆われた現場…テレ朝社員は「屋上には天気予報コーナーのスタッフらがいた時間帯だった」
NEWSポストセブン
62歳の誕生日を迎えられた皇后雅子さま(2025年12月3日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまのラオスご訪問に「感謝いたします」》皇后雅子さま、62歳に ”お気に入りカラー”ライトブルーのセットアップで天皇陛下とリンクコーデ
NEWSポストセブン
竹内結子さんと中村獅童
《竹内結子さんとの愛息が20歳に…》再婚の中村獅童が家族揃ってテレビに出演、明かしていた揺れる胸中 “子どもたちにゆくゆくは説明したい”との思い
NEWSポストセブン
日本初の女性総理である高市早苗首相(AFP=時事)
《初出馬では“ミニスカ禁止”》高市早苗首相、「女を武器にしている」「体を売っても選挙に出たいか」批判を受けてもこだわった“自分流の華やかファッション”
NEWSポストセブン
「一般企業のスカウトマン」もトライアウトを受ける選手たちに熱視線
《ソニー生命、プルデンシャル生命も》プロ野球トライアウト会場に駆けつけた「一般企業のスカウトマン」 “戦力外選手”に声をかける理由
週刊ポスト
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン