プロも熱い視線を送る佐々木

 夏の甲子園で決勝まで進出した奥川恭伸(星稜)と、大学日本代表との壮行試合の直前にできた右手中指の血マメを悪化させた佐々木は、W杯の予選ラウンド5試合で登板がなかった。

 佐々木は、南アフリカ戦後、「何もしていないんで、お話しできることはありません」と一度は口にしたもの、少し間を置いて、こんな言葉を残した。

「スーパーラウンドには間に合うと思う。ここまで投げられなかった分、チームの世界一に貢献したい」

 佐々木は、9月6日の韓国戦でようやく先発登板した(1イニング19球で降板)。それまでひとりだけ蚊帳の外(奥川は南アフリカ戦で打席に立った)で、投げられないもどかしさや焦りを抱えているのではないかと思ったが、そんな様子はなく登板に向け泰然自若としていた。高校日本代表を率いる永田裕治監督は言った。

「(学校から)預かっている立場なので、無理はさせず、登板の判断は本人、それから理学療法士と整形外科の先生にお任せしています」

 投げさせて故障するリスクがあるなら、投げさせないで敗れてもいい──ほんの1か月前、岩手大会では日本中が騒然となったが、大会の性質が全く違うとはいえ、少しずつ当たり前の景色に見えてくる。“投げない怪物・佐々木”の存在で、高校野球を取り巻く環境は大きく変わりつつある。

●柳川悠二(ノンフィクションライター) ●撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2019年9月20・27日号

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