溝口:高山自身、この前警察から事情聴取された際、「神戸山口組とは付き合いの長い入江禎副組長を窓口に話し合う、任侠山口組には使者を送る」と言っていたそうです。だから、当分はこの3つの山口組状態が続くだろうと見ています。
鈴木:本来なら分裂した組織がそのまま存続できるということ自体、ヤクザのセオリーではあり得ないはずなのに、現実として起きてしまっている。ただ、このままだと3つともじわじわと衰退していくしかないでしょう。
溝口:そうでしょうね。
鈴木:ヤクザは抗争をして初めてシノギができる。「腹をくくったらこれだけ殺し合うのか」「こいつら残酷だな」という恐怖感を世間に振りまいて、初めて暴力団は成立します。
溝口:飲食店に「みかじめ払えよ」というときでも、抗争をしていないと迫力がない。抗争に勝てば金が湧くっていうのは、そういうこと。暴力団の迫力は喧嘩に勝ってはじめて得られる。
鈴木:抗争というのは、ボクシングみたいに、みんなが見ているリングで殴り合いをしているようなもの。分裂して対立構造が可視化している、つまり、すでにリングに上がっているのに殴り合いを始めないんだから、だんだんナメられるようになる。他団体にも「もう山口組の後見は要りません」というところが増えています。今まで「山口組がうちの組織の後ろ盾です」と言っていたのが、西側の組織は「いや、もういいです」と言い始めている。
溝口:山口組が分裂したことによって、京都の会津小鉄会や関東の松葉会のように他団体も分裂してしまいましたよね。
鈴木:いずれももともと後見に六代目山口組を置いていて、その威光が崩れたことでガタガタして分裂してしまったわけですよね。
●みぞぐち・あつし/1942年、東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業。ノンフィクション作家。『食肉の帝王』で2004年に講談社ノンフィクション賞を受賞。主な著書に『暴力団』『山口組三国志 織田絆誠という男』『さらば! サラリーマン』など。
●すずき・ともひこ/1966年、北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。主な著書に『潜入ルポ ヤクザの修羅場』『ヤクザと原発』『サカナとヤクザ』など。
※週刊ポスト2019年9月20・27日号