一方、1960年代の日本は、経済成長を最優先したツケが一気に噴出していた。水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそくという公害が社会問題となっていた。人間のためになるはずの経済が、かえって人間を苦しめている。経済学者として、その現実に立ち向かい、解決したいという思いが、帰国という道を選ばせたのではないだろうか。
その後、宇沢は成田空港建設問題の調整役を買ってでたり、地球温暖化問題などにも関心をもった。「炭素税」を導入すべきと考え、それがきっかけとなって、環境省の「地球温暖化対策のための税」が創設された。「行動する経済学者」とも評される所以である。
宇沢は5年前に亡くなっているので、トランプ大統領の出現を知らない。自由貿易の旗振り役だったアメリカが、保護貿易的姿勢に転換しはじめている。宇沢先生が生きていたら、この現状をどう分析するのだろうか。国内でも、中高年の引きこもりが61万人という現実、働き方改革のゆくえなど、気になることも多い。宇沢先生ならどう答えるのか、聞いてみたかった。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉教授。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。
※週刊ポスト2019年9月20・27日号