◆玉村豊男、吉村作治、両氏は?
エッセイスト、画家、ワイナリーオーナーなど、多くの顔を持つ玉村豊男氏(73)は、「今は病巣を飼い慣らしながら生きている」と語る。
41歳で原因不明の大量吐血をし、そのときの輸血が原因で慢性肝炎を患い、肝炎治癒の後は肝がんに。30年以上、ずっと死を意識しながら生きてきた中で辿り着いた心のうちは、日々の暮らしの大切さだという。
「一日を生きるということは、一日を暮らすこと。朝、目が覚めたら犬と散歩に行き、些事を片づける。食事を作り、夜にはワインを飲みながら馬鹿話をして眠る。死ぬまでそんな変わらない日常が過ごせれば、最高に幸せですよ」
毎年書くといいながら手をつけなかった遺言も、ようやく2年前に夫婦ともども遺した。
「遺骨は粉骨してぶどう畑に撒いてもらうことにした。特別なヴィンテージワインができそうでしょう。“玉村豊男粉骨砕身畑”で作ったワインの味は格別だよ」と豪快に笑う。
そして、「死の瞬間がどのような形で訪れるかはわからないが、いつその瞬間が訪れてもいいように、少しずつ心の準備はしておこうと思っています」
エジプト考古学者の吉村作治氏(76)は、70歳過ぎから転倒で怪我や病魔に侵されるなど、この6年間でさまざまな不調が体を襲った。
それでも半世紀にわたって大変な思いをしながらピラミッドを調査・研究してきたことや、エジプトが「死」と深いところでつながっていることを考えるうちに、いつも気を取り直して前向きになれたという。
「体も脳も衰えているのに、好奇心はまだまだ旺盛。子供っぽいのかね」と笑いながら、持論である「ピラミッドは王墓ではない」の解明に今後も挑む。そして、そのための費用捻出にと生前葬も検討しているとか。
「生きているうちなら、香典を多く包んでもらえると思ってね。うんと集めて、調査に使いますよ」
自身の墓は既にエジプトに土地だけ購入しているという。だが、亡骸をエジプトに納めるかはまだ決めていない。
「お墓はあの世とこの世をつなぐ大切な場所。疎かにしてはいけません。日本人も昔からお墓を大切にして、先祖を敬ってきたけれど、昨今はそれも希薄になっている。きちんとお墓を建てて、先祖を敬う社会に戻さないとダメですよ」
想定する死期は年々延びているが、今のところ勝手に89歳と決めている。それまでには発掘調査の集大成をして、墓もきちんと決めたいと語った。
●取材・文/下川良子(スペース・リーブ)
■渡辺達生作品展『寿影』
・10月4日(金)~17日(木)11時~19時
・ソニーイメージングギャラリー銀座:東京都中央区銀座5-8-1 銀座プレイス6階
※週刊ポスト2019年10月18・25日号