「この脱退劇自体、当時の冨田哲郎社長がスト権行使を通告してきた東労組に全面対決を挑んだことに端を発する。〈労使共同宣言〉の失効を通告し、民営化以来の癒着を断ち切った会社側の強硬な態度が、組合員の背中を押したともいえます。
中には月約8千円の組合費が浮いたことを〈破格のベア〉と喜ぶコもおったし、嫌われる原因は時代遅れな闘争を繰り返した側にある。だからって本当に組合なしでいいのか?って話なんです。脱退者の半分は社友会にも入ってなくて、宙に浮いた1万7千人の権利を本当に官製春闘や労基署が守ってくれる保証もない。
健全な労使関係なしに健全な経営は望めない以上、会社も五輪明けくらいには何かしら動くとは思うけど、人と人が分断されてた方が楽なのは統治する側ですからね。今、自分の頭で考えなくて、どうすんねんと」
実際、非正規や外国人労働者など、あらゆる分断を超えた労働運動のあり方が今ほど問われている時代はなく、全ての働く人に活を入れるような1冊でもある。
【プロフィール】にしおか・けんすけ/1967年大阪市生まれ。同志社大学法学部卒。神戸新聞社時代は阪神・淡路大震災や神戸児童殺傷事件等を取材し、1998年『噂の眞相』に移籍。森喜朗首相の買春検挙歴のスクープ等で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」を2年連続で受賞。その後『週刊文春』『週刊現代』記者を経てフリー記者となり、2008年『マングローブ』で第30回講談社ノンフィクション賞。著書共著に『襲撃―中田カウスの1000日戦争』『百田尚樹「殉愛」の真実』等。163cm、66kg、A型。
構成■橋本紀子 撮影■黒石あみ
※週刊ポスト2019年11月8・15日号