「意味がわからないでしょう? 本来はいちばん安心できる相手であるはずの母が何をしでかすかわからないので、つねに心が休まらない少女時代でした。
ただ、今は私も2児の母になって、わかったことがあります。あれは母自身の不安や混乱に、私が巻き込まれていただけだったということです。子供の私は何も悪くなかった。自分の気持ちを自分で整理する、という力は母より私の方が持っていて、中学生くらいの時にはその力が母と逆転していたように思います」
子供にとって絶対的な拠りどころであるべき「母」が、実は子育てに悩む心の幼い“女の子”だった──子供が子供を育てていたようなものだと、母となって悟ったのだ。
田房さんほど過激ではなくとも、同じような体験をしたと感じる女性は少なくない。愛知県に住む飯塚千恵子さん(33才・仮名)は、自らの中高生時代をこう振り返る。
「教員をしていた父が厳しく、体罰もしょっちゅうで、大嫌いでした。世間体にとてもうるさく、私がちゃんとしていないと母を責めて、母はいつも泣いていました。子供ながらに『私がいい子でいないとお母さんが叱られる』と思って、勉強も部活も必死にやっていました。
でも、後でわかったのですが、私に厳しくするようにと父に指示していたのは、母だったんです。そうとは知らず、『私のせいでお母さんが叱られる』という罪悪感に駆られ、自分を押し殺してきたのを知って愕然としました」(飯塚さん)
罪悪感を植えつけて娘をコントロールするのは、『凪のお暇』の主人公・凪の母である夕のやり口そのもの。「親には孝行するもの」という考えが根強い日本では、周囲の理解を得るのも難しく、娘自身も“毒”されやすい。
※女性セブン2019年11月21日号