彼らのほとんどは、それまでは普通に生活する一般市民だった。ギャンブルや遊興に夢中になったり、じわじわと仕事が減るなどして苦しくなった生活を立て直したくて副収入を得たいともがいていた。そのときに出会ったのがまっとうな副業ではなく、特殊詐欺になってしまっているのは、SNSで気軽に探せて、誰にも知られずにこっそり、場合によっては明日からでも詐欺を働き、即報酬を受け取れる実態が存在するからに他ならない。

 男と嫁、その娘が特殊詐欺の受け子をしていたとして逮捕されたという衝撃的な事件が発生したのは、ちょうど一年前のこと。逮捕された男の父親・Cさん(80代)も、筆者の取材に当初は「何も喋りたくない」と口をつぐんだが、最終的には自身が置かれたどうしようも無い状況を語り、自身の無力さを呪うように嗚咽を漏らすのだった。

「一昨年まで、息子一家と一緒に暮らしていた。息子は警備関係の仕事に就き、しっかり働いていたと思います。ギャンブルが好きで、借金もあったと思うが自分には言いませんでした。私自身思うところがあり、一家で東京などの都会に出て、働いてみてはどうか、そう促したんです」

 息子一家と離別して三年後、事件の発生をニュースで知った。

「本当に何も知らない。しかも息子だけでなく、嫁や孫まで…。私が不甲斐ないばかりに…。本当に申し訳ない。(事件後)息子とは何度か手紙でやり取りをしました。迷惑をかけてすまないと書いてありましたが、なぜそういうこと(詐欺事件への加担)になったのか、詳しく聞いていません」

 Cさんの息子一家は、息子が何らかのきっかけによって始めた「受け子」の仕事を、妻や娘と一緒になって働いていた。金に困っていたであろう一家にとって、金を駅のロッカーに出し入れするだけで金が得られるだけの「仕事」に最初こそ違和感はあれど、おそらくほとんど罪の意識はなかったに違いない。少なくとも、彼らは「仕事」をすることによって、貧困から脱出し、現状を打破し生活を改善するという目的があったのだ。だからこそ、家族一緒になって継続して「仕事」に励んだ。

「感覚が麻痺するんです。人殺しでもないし、相手は金持ちの中高年。僕らからいくらか盗られたって、死ぬわけじゃない。そのうち、本当に”仕事”になって稼ぐ感覚が気持ちよくなってくる」

 こう話すのは、かつて特殊詐欺の「かけ子」をしていて逮捕された関東地方在住の男性Dさん(二十代)だ。特殊詐欺によって得た報酬は、本人が覚えているだけでも300万円ほど。そのうちの100万は、実家に暮らす親元へ「仕送り」もしていた。親にはもちろん、その金がどういう経緯で得られたものなのか隠していた。

「逮捕後、警察が母親に事情聴取をして全てがバレました。親はあまりのショックで、さらには近所中に噂も広まり、引っ越しを余儀なくされたようです。どこからかき集めたのか、300万以上の金を僕の口座に振り込み、被害者の弁済に使えと言って以来、連絡が取れなくなりました。罪は償いますが、母のためを思ってやった部分もあったのに」

 前述のC氏宅近くに住む住人も、C氏の息子が重大犯罪に加担していたことを知ると、C氏との関係が希薄になったと話す。

「Cさん、息子さんのことで相当苦労されていますが、同情はできないですよ。家族で詐欺をやっていたなんて、知らないでは済まされないし、Cさんにも責任がないとはいえない」

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