バカ殿様(志村けん)と側用人(田代まさし)の掛け合いは傑作だった(時事通信フォト)

バカ殿様(志村けん)と側用人(田代まさし)の掛け合いは傑作だった(時事通信フォト)

 それにも関わらず、『バカ殿』は現実として再放送されていない。理由としては、制作局の自主規制であろう。過去に罪を犯した人間がテレビに出演してはならない、といった法律はない。しかし、「映してはいけない」といった不文律があるようだ。

 田代は様々な媒体で覚せい剤に何度も手を伸ばしてしまう理由を聞かれてきた。その度に彼は「刑務所から出てきても誰も助けてくれない。孤独になると、さみしいからまたやってしまう……」と答えた。過去、自分が行ってきた仕事が抹消される。自主規制とはある種、究極の無視だといえる。過去の作品をいっさい消去してしまう今の自主規制のあり方はさみしさを助長させる。結果的に再犯への後押しになっていたのではないか。

 田代は「毎日、ギャグを考えるのがしんどくて……」覚せい剤に頼った経緯を持つ。ある意味、ギャグに殉死した芸人。覚せい剤に手を伸ばすほど芸能に奉仕した生真面目すぎる男である。局側にも多く貢献してきたはずだ。もちろん、イメージやスポンサーといった問題があることも理解できる。しかし、『バカ殿』はバカなだけの優れたコント作品だ。過去の傑作を再放送することくらい、どうにかならないものか、とも思ってしまう。

 自主規制によってテレビに出演できない田代、現在の活動はネットテレビに比重が置かれている。ゆえに、ネットテレビに関するコラムを記している僕ははからずも田代ウォッチャーになってしまった。

 田代は2019年6月、『田代まさし ブラック マーシー半生と反省を語る』と名付けたYouTubeチャンネルを開設した。動画の概要欄には「依存と戦っている現在の田代まさしの姿を見て頂き、皆様の応援を頂きたくこのチャンネルを開設致しました」と経緯が記載されている。

 動画内で田代は元覚せい剤中毒者であることを自虐ネタとしていた。しかし、こういった「しくじり」キャラは絶対に再犯しないという暗黙のことわりゆえに許容できた気もする。田代は覚せい剤の怖さを卓越した話術で啓蒙し続けたが、結局のところ覚せい剤の魅力に抗えなかった。5度目の逮捕によって、生き様で覚せい剤の怖さを伝えたのは皮肉でしかない。

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