ケシをインドまでもたらしたのはアラビア商人だが、そこからさらに東へ伝えたのはイギリスの東インド会社だった。同社がアヘンを中国への主力輸出商品としたのは18世紀のことで、19世紀初頭にはアヘンを原料にモルヒネが開発され、19世紀後半には戦争負傷者の鎮痛剤として広く使用されるようになった。

 銃創を負った兵士に緊急措置としてモルヒネを注射することは20世紀の戦場では常態化し、米軍では恐怖心を取り除くためマリファナ、日本軍ではヒロポンと称された覚醒剤の使用が珍しくなくなった。

 終戦後しばらくの日本では余ったヒロポンが市中に出回り、肉体労働者により愛用されたが、慢性中毒により精神を病む者や急死する者が多く、大きな社会問題と化した。米国でもベトナム戦争帰還兵の多くが薬物依存症やPTSD(戦争後遺症)を引きずり、近年のイラクやアフガニスタン帰還兵にも同じ症状に悩まされている者が少なくない。

 目を日本の芸能界に転じれば、売れなくなったらどうしようという不安を紛らわすためか、刹那的な快楽を求めて薬物に走る人間が後を絶たず、一般社会にも広まる恐れが十分にある。

 とはいえ、ケシや大麻、コカが医療で用いられる場面があるのも確かなので、その畑を根絶するわけにもいかず、他の商品作物よりはるかに高収入が得られることから、麻薬として使用されることがわかっていても、生活のため栽培をやめられない農家が大部分を占めるのも厳しいながら現実である。

【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など著書多数。最新刊に『ここが一番おもしろい! 三国志 謎の収集』(青春出版社)がある。

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