国内

大学入試「英語民間試験」への批判に改革のキーマンが大反論

英語民間試験の導入見送りを発表する萩生田光一文科相(時事通信フォト)

 2020年度(2021年実施)の大学入試では、共通テスト(新センター試験)の英語に民間検定機関によるスピーキングとライティング(英作文)の試験を追加し、数学と国語には記述式問題を導入する予定だった。しかし、この改革に対し、「民間試験は地域格差、経済格差を生む」「バイトに記述式の採点ができるのか」「記述式は自己採点ができないので、出願で迷う」などの批判が多方面から殺到し、まさに“炎上状態”になった。

 こうした批判を受け、萩生田光一文科相は英語民間試験の導入を2024年度(2025年実施)まで延期すると発表。記述式問題導入についても、新聞報道によれば、文科省は見送りにする方針を固めたとされている。

 世間ではあまり知られていないが、一連の大学入試改革で理論的支柱の役割を果たしていたのが、東京大と慶應大SFC(湘南藤沢キャンパス)の両大学で教授を務める鈴木寛氏だ。鈴木氏は慶應SFCの助教授だった頃の2001年に参議院議員になり、民主党政権で文科副大臣を二期務めた。2012年の政権交代の後、下野したが、自民党政権でも下村文科相から請われて文科省参与に就任。2015年2月より大臣補佐官を務め、下村氏から馳浩氏、松野博一氏、林芳正氏と文科相が交代しても、鈴木氏はその職にあった。2018年10月からは大学教授などの職務に専念している。

 政権交代をまたいで重職にあり続けたというのは異例に思えるが、その間、大学入試改革を構想し、実現のため指揮を執ってきたのは事実。その鈴木教授に、迷走を続ける大学入試改革、特に英語民間試験導入について質した。

 * * *
──そもそも英語入試に民間試験を導入しようとした理由からお聞きしたい。

鈴木氏:ことの発端は、英語の4技能(読む、書く、聞く、話す)を身につけさせるとした学習指導要領が、20年以上、高校の現場で無視されてきたことにあります。平成11(1999)年の学習指導要領からずっと、英語のコミュニケーション能力を身につけさせることが謳われているにもかかわらず、平成30(2018)年の文科省「英語教育実施状況調査」によると、英語のコミュニケーション(話す)の授業を実施している高校は3割しかない。中学校では8割が実施しているのに、高校になった途端に3割に減る。

 高校の英語教員は教えられないのかというと、そんなことはない。教員の7割がセファール(CEFR。言語能力を評価する国際指標)の英語力指標でB2以上(英検の準一級から一級レベル)を取っているんです。できるはずなのに、日本の高校では読解と文法ばかりやっている。

 なぜコミュニケーションの英語を学ぶべきなのか。国内にいてもインバウンドの観光客がすでに3000万人、いずれ4000万人になる。観光客の接客でも英語が必要になります。漁業や農林業でも、外国人と仕事をする機会が増える。今や広島では漁業従事者の6分の1が外国人です。グローバルな大手企業の場合、上司や部下、同僚、取引先に必ず外国人がいる。極論かもしれませんが、移民がこれから数十万人入ってくれば、英語のできない若者が失業する可能性が高まる。

 だから、平成11(1999)年からコミュケーションの英語の授業をやろうと学習指導要領で決まったのに、20年間放置されてきた。中学校の先生は学習指導要領を守りますが、高校の先生は守らないのです。なぜ守らないのかというと、学習指導要領より大学入試のほうが大事だから。話す技能は入試に関係ないからです。入試の英語試験を変えない限り、高校の教育は変わらない。

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン