──民間試験ではなく、共通テストで実施する形にはできなかったのか。
鈴木氏:共通テストでやるというのも一つの選択肢でした。それでも民間試験活用を選んだ理由の一つは、共通テストでやる場合、大学入試センターにはノウハウもリソースもプラットフォームも全くないので、試験体制の準備に膨大なお金と時間がかかるからです。大学入試センターには国費が1円も入らず、受験料で賄われているので、新規の投資分は受験料に跳ね返ります。そうなると、受験生一人当たり1万5000円から2万円の負担増になる。民間試験にしたことで、受験料を6820円に抑えることができた。さらに低所得者向けには5000円台になり、必要ならばさらに下げることは可能だった。すでに大学入試でも定着している制度を使えばすぐできる。
そもそもスピーキングの試験や採点に必要な人員を1回の試験に集めることが不可能でした。共通テストでやるとしたら、受験者55万人を4回くらいに分散させるしかないのですが、12月より前に共通テストを実施する案に対し、公立高校の全高長(全国高等学校長協会)は大反対でした。それで、共通テストとしてやるという選択肢はなくなった。
二つ目の理由は、こちらのほうがむしろ重要ですが、「またガラパゴスを作るんですか?」と。グローバルに世界の大学の入学者選抜で使われているスタンダードがすでにあるのに、日本人の日本人による日本人のための英語テストを作る必要があるのかと。セファールの対象となっている民間英語検定試験は何十年も前から世界中の大学が入試に使っていますし、日本でも、日本の大学院の多くと、大学の3分の1も入学選考の参考資料としてすでに使っています。東大でも大学院入試と帰国子女の大学入試で利用しています。「今までそれで何か問題が起きましたか?」と言いたい。
三つ目の理由は、落とすための試験から脱却したかった、ということです。現行のマークシートの試験というのは、1点で争って合否を分けるための試験ですから、細かい知識を問う問題を出さざるをえない。しかし、英語の民間試験は英語力がどの水準にあるかを認定・検定する試験で、マニアックな問題で受験生に点差をつけさせる試験ではなく、非常にオーソドックスな問題を出して、「この人の英語はこのレベル」と認定するものです。
そもそも論として、英語というのは大学側が「この水準に達していないと大学の授業についていけませんよ」というもので、ある要求水準を超えていたら、もうそれで入学OKにすべきものなんです。高3の間に4~5回の試験で、要求される水準に達していることを示せるスコアが出せたら、それでいいことにできるようにした。1点差で合否を争わせ、しかも、一発試験で人生が変わってしまうことがずっと批判され続けてきました。だから、回数を増やして分散しようとしたわけです。世界の入試のスキームはそういう考え方でできている。日本の英語教育をゆがませてしまったのは、これまでの入試なのです。