特殊詐欺への関与が凶悪犯罪への入り口になりつつある
「彼とは投資ビジネスのセミナーで知り合ったと記憶していますが、あまり目立つ人ではありませんでした。実際、ビジネスの方でも実績は芳しくなく、私が彼に紹介したビジネスを巡って、投資した人たちから追われている、というような話も聞きました。正直、情報商材ビジネスそのものは情報弱者を狙い撃ちにしたもので、儲かるのは一部の人たちだけ。私は嫌になってやめましたが、彼も結局借金まみれになり、いつの間にか消えた。でもまさか、殺人未遂とは……」(X氏)
情報商材ビジネスとは、その名の通り「情報」を販売する商売だ。株などで儲かる方法とか、病気が治る方法、人生で成功する方法などの情報を、現在では主にネットを使って販売するのが主で、そのほとんどが「マルチまがい」のビジネスと見られる。マルチやねずみ講と同様に、自身がその情報を購入し、自身の紹介で同じ商品を他者に販売すれば、売り上げのうち何割かが報酬で入ってくる。他者が別の他者を呼び込めば、自身にもまた何割か入る、などと説明され、いかにも楽して不労所得が得られると勘違いし、今日でも多くの人が足を踏み入れる。相手を騙すつもりで参画する人もいれば、世間知らずから本気で儲かると信じてハマる人だっている。
男がどうだったかは定かではないが、より手軽に、そして短時間で大金が得られるなどと思い、情報商材ビジネスというグレーな世界に入ったことは間違いない。だから特殊詐欺に関わることは、それほど不思議ではないと、その世界に関わった人はみるのだ。
たとえば、特殊詐欺のかけ子や受け子をして誰かが逮捕されたとしよう。一般的な周囲の反応は「特殊詐欺で逮捕されるなんて、終わっている」というものに違いない。しかし、筆者が取材してきた感覚では違う。特殊詐欺に関わった人物にはたいてい、過去にも詐欺に関わった経験があり、彼らを知る人たちは新ビジネスに取り組んでいたのかという程度の感想を漏らす。そして、いったん詐欺の実行側にまわると、ずっと何らかの詐欺に携わることが多い。詐欺師は一生詐欺師、だった。ところが、最近ではどうも様子が違う。
今や特殊詐欺は、凶悪犯罪への入り口だ。詐欺を経て、違うジャンルのさらに凶悪な犯罪者へと成り果てる。その凶悪犯罪者へと転がってしまうのは、もともと犯罪そのものと縁が薄かった一般人が多い。