こうして、独自のこだわりを貫き通した結果、婚期を逃し、気づけば45歳になった。今も諦めていないというAさんの結婚願望は叶うのか。

 筆者は気分が悪くなったのでうんと意地悪な問いかけをしてみた。親の介護と老後はどうするのかと。

「幸い親は年金で裕福ですし、一人っ子なんで持ち家は継げます。親の介護? 考えたこともないですね。まだ二人とも元気で海外旅行とか行ってますよ。どうにかなったら施設に入れるしかないでしょう。自分の老後はもっとわかんないですね。それより正社員になって結婚して、子どもを作ることが重要でしょうね」

 Aさんは真面目な顔をして語るが、数年後に結婚して子どもを作ったとして、Aさんは子どもが成人するころもう70歳だ。それを指摘すると「男はいくつになっても子どもは作れますから」と言った後、「あ、さっきのババアとかのとこ、ネタですからね」と笑った。いつになったら自分の年齢と、残された時間に気づくのだろう。気づかないフリをするしかないのか。

 生まれてから今まで実家住まいで自分で家賃も光熱費も払ったことがなく、いまも母親にご飯を作ってもらい、稼いだお金は全部お小遣い。大金持ちではないが、元大企業のサラリーマンと専業主婦の母という逃げ切り世代を両親に持つAさんはある意味幸せで、人によってはこれのどこが“しくじり”かと思うかもしれないが、誰でも年をとり老人になることを思えば、やはり“しくじり”を重ねてしまったと言わざるをえない。

 人間にとって最大の敵は孤独だ。孤独に取り込まれたとき、人は狂う。しくじり世代は他の世代よりも、孤独に蝕まれやすい環境にさらされてきたのに、年をとることで孤独との戦いはますます厳しくなる。余裕がある世代だった親たちに介護が必要なときがきたら、安定した仕事がなく、十分な蓄えもつくれず、次世代との繋がりがないような、余裕がない子ども世代は簡単に身動きがとれなくなる。そして、ここでも孤独との戦いが待っている。

 孤独の時限爆弾はすでに作動している。Aさんも、例外ではない。

 しかしAさんの良さもある。これだけのことをあっけらかんと話すくらい、ある意味肝が座っている。方向性はむちゃくちゃだが、女性に対しても“コミュ障”というわけでもない。「好きなだけ書いていいですから!」と心配になるほど大胆で、天真爛漫と言ってもいい。平凡で優しい親の元、幸せな家庭に育ったことが伺える。人、とくに異性に対する気遣いさえ身につければ、この大胆さを好む女性もいるだろう。

 これまでのしくじりを認め、年相応の自身の身の丈を見つめ直せば、思い描いたバーチャルな甘い夢とは違う形かも知れないが、穏やかな未来を迎えられるかもしれない。

●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年9月、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年7月『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。12月『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)を上梓。

関連記事

トピックス

悠仁さま(2025年11月日、写真/JMPA)
《初めての離島でのご公務》悠仁さま、デフリンピック観戦で紀子さまと伊豆大島へ 「大丈夫!勝つ!」とオリエンテーリングの選手を手話で応援 
女性セブン
高市早苗首相(時事通信フォト)
《日中外交で露呈》安倍元首相にあって高市首相になかったもの…親中派不在で盛り上がる自民党内「支持率はもっと上がる」
NEWSポストセブン
阿部なつき(C)Go Nagai/Dynamic Planning‐DMM
“令和の峰不二子”こと9頭身グラドル・阿部なつき「リアル・キューティーハニー」に挑戦の心境語る 「明るくて素直でポジティブなところと、お尻が小さめなところが似てるかも」
週刊ポスト
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン