Aさんは仕事が絡むと女性に対して強気に出られると語る。しかし、知り合ったきっかけは仕事でも、実際にその女性と交際しようとなると、仕事の上下やクライアントとしての立場とは関わりがない状態で相対して自分そのものの魅力を知ってもらい、好ましく思ってもらわなければならない。だが、それでは自分の気持ちをまったく伝えられない。スポーツも苦手なオタクでルックスも異性からみて魅力的とはいえず、その現実を思春期から学校で嫌というほど同級生、とくに女子から叩き込まれたAさんにしてみれば、仕事での立場を利用する以外に「他に女性と付き合う方法がわからない」というのは無理もない。
昔なら、Aさんのように女性と向き合うのが苦手な人でも、大学を出て、働いていれば一人くらい嫁さんは来た。それを世話する世間もあった。下の世代から見たら結婚できるほどの魅力がどこにあるか分からないようなおじさんでも、たいてい嫁がいて子どもがいるのに……。
「結局、いまだに独身で彼女いない歴=年齢ですよ」
実はAさん、ゲーム会社の契約社員を雇い止めされたあと、同じ会社の先輩が独立して立ち上げた零細ゲーム会社に入社し、そこでも同じようなトラブルを起こしている。筆者が彼と知り合ったのはこの時期なのだが、実のところAさんのように公私混同する人は他にもいて、なんとスタッフと声優で結婚できた人もいたりする。
「先輩の会社は解散してしまったので、その後は派遣プログラマとして平々凡々と生きてます」
筆者はどうしても聞きたいことがあった。
「Aさん、いわゆる女性との経験はあるの?」
答えてくれるだろうか。
「童帝です。ていは帝王の帝で」
即座にあっけらかんと答えてくれた。意欲はあるようだが、できないものはしょうがない。風俗嬢は汚いから嫌いなので行ったことがないそうだ。
「それに若い子が少ないじゃないですか。やっぱり若くてかわいい子がいいです。親も子どもを欲しがってるし。アニメキャラはもちろん、声優だって20歳代後半でババア扱いのギョーカイですから。そういう世界にいた自分としてはその辺のおばさんなんて無理ですね」
やはり声優と結婚したいという、それも若い声優で。いまも子役上がりの声優でMという「推し」がいるようだ。四半世紀の年の差があるのだが。