八七年にはテレビドラマ『ママはアイドル!』(TBS系)に出演、コメディにも挑戦している。
「俳優って《ないものねだり》をしたがるもので、いつも同じ役だとつまらなくなるんです。あれも、話が来た時は面白いと思ったんですが──ダメでした。
役者は難しいと思いました。演じようとしちゃう。番組を見ていて、それが見えてしまう。コメディアンの人たちがコメディの芝居をすると、そこが凄く自然なんですよね。笑かそうとしていない。その腕がないと、笑かそうというのが見えちゃうんですよ。腕もそうですし、引き出しも、駆け引きも。経験を積んでないとダメなんだと『ママはアイドル!』のオンエアを見て感じましたね。
それで、二年くらい休んで藤田まことさんの付き人をやろうか真剣に悩みました。あれだけ藤田さんと一緒にいたのに、何も見ていなかったんだなって。
ですから、『ママはアイドル!』では、藤田さんだったらこのセリフはどう言うだろうかとか考えてやっていました。でも、できないんです。やろうとすればするほど、あざとく見えちゃう。芝居は実に難しい」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影/黒石あみ
※週刊ポスト2020年1月17・24日号