以前、契約していた携帯を解約するのに、契約期間の2年をわずか1日過ぎていた時、ドコモ店員は「ああ、残念でしたね。決まりですから。契約書に書いてあるでしょ」と全くもって、すげない。「なら数日前に、期限が近づいています、というはがきの一枚でも寄こせばいいのに」と言うと、「ですよね~」と言いながらニヤニヤ。決まりは決まり、とわかってはいるけれど、バカにしたような口調にはホント、頭きた。
内部資料にはきっと「口うるさいカモ。携帯も頭も弱いオバさん」と書いてあったのではないか。
そりゃあね。どんな業界にでも、客に知られたくない符丁がある。私の“符丁事件”はタクシーで。まだバブルの泡が残っていた頃の話だけど、成田空港から20分ほどのゴルフ場までタクシーに乗り込んだ。すると運転手は、大きな交差点にさしかかると運転席の横の窓を開け、並んで止まった知り合いの運転手に向かって、「ゴミ拾っちゃったよ、ゴミ」とこう言ったのよ。
タクシー業界用語で、当ての外れた客を“ゴミ”と呼ぶのを知っていた私は、連れのオジサマにさっそく告げ口したわよ。それを聞いた運転手は平謝りに謝った後で、「実はお客さんを乗せるまでに朝6時から3時間も並んでいて、長距離の乗客を期待していたもんですから、つい。でも言っていいことではないですよね。申し訳ありません」と、料金の値下げを申し出てきたの。
…結局は人柄なんだよね。客による当たり外れの大きさにすっかり同情したオジサマは、降車時に正規料金に少しのチップを乗せて払い、私は私で軽い冗談で「ゴミ、降ります」と言うと、運転手は「お客さん、もう勘弁してくださいよ。もう言いませんから」とすくめた全身に“後悔”をにじみ出していた。
裏と表があって世の中だし、なかでも接客業は本当のことを言えばいいというものじゃない。ていうか、人は一瞬一瞬でいろんなことを思うもの。それをあからさまにされたいかというと、私はイヤ。外面はちゃんと守ってほしいわ。
※女性セブン2020年1月30日号