国内

かつて報道は加害者追ったが、人権尊重から被害者取材に変化

京アニでは被害者にさまざまな取材の波が押し寄せた(共同通信社)

 2019年7月18日、アニメ制作会社『京都アニメーション』(京都市伏見区)の第1スタジオに男が侵入し、ガソリンをまいて放火。この京アニ事件では、被害者の実名報道について議論が起こった。

 犯罪の被害者と加害者、それぞれについての報道はどう変わっていたのだろう。

「被害者学」の第一人者で元常磐大学学長の諸澤英道さんに聞いた。

「かつては、阿部定事件(1936年、東京で発生。割烹料理店の中居だった阿部定が、店の主人で愛人の男性を殺害した猟奇的事件)や永山則夫連続射殺事件(1968年、当時18才の永山則夫が4都道府県で4人を殺害した事件)など、事件に犯人の名前がついていたことに象徴されるように、マスコミは加害者側を追いかけていました。

 ところが、加害者の人権を尊重すべきだと弁護士がガードし始めてから、加害者への取材が難しくなったため、被害者側の取材に移行したという経緯があります」

 1980年代になると、過剰な被害者報道が問題になった。

「『富山・長野連続女性誘拐殺人事件』(1980年、富山県で発生。女子高生、20才のOLが相次いで誘拐・殺害された事件)、『女子高生コンクリート詰め殺人事件』(1988年、東京で発生。女子高生が40日間にわたり拉致監禁の後に殺害されコンクリート詰めにされ遺棄された事件)などがそうでしたが、事実と反して、被害者に落ち度があるように報じられたり、被害者のプライバシーを暴く報道に非難の声があがりました。1980年代は報道のあり方が問題になった転換期です」

 1990年代に変化の兆しが見えてきて、2000年に発覚した事件で大きな変化があったという。

「新潟少女監禁事件という、小学4年生の女の子が連れ去られ、約10年にわたって監禁されていた事件です。この時にマスコミは、救出された被害者の自宅から半径数百m以内には近づかない、という報道協定を結びました。被害女性の周辺取材を控えたことは大きな変化です」

 しかし、今も事件や事故、災害が起きるたびにメディアスクラムは起こる。それが「近年のメディア不信の原因の1つになっている」と指摘するのは、マスコミ論が専門の、元専修大学教授で文芸評論家・権田萬治さん。

「多くのマスコミが一斉に殺到し、事件や事故の当事者やそのご家族の社会生活を妨げ、精神的苦痛を与えてしまうことがメディアスクラムです。あまりに過熱した取材が報道被害を生み、それがメディア不信へとつながります。

 代表取材(報道陣の中から選ばれた代表のみが取材にあたり、他の報道陣にその内容を伝えること)にしたり、時間や記者の人数を制限するなどして、メディア側も解決策を探っていますが、必ずしも充分とはいえません」

 前出の諸澤さんは解決策の1つに、欧米で行われている「スポークスマン制度」を挙げる。

関連記事

トピックス

交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
身長145cmと小柄ながら圧倒的な存在感を放つ岸みゆ
【身長145cmのグラビアスター】#ババババンビ・岸みゆ「白黒プレゼントページでデビュー」から「ファースト写真集重版」までの成功物語
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
《長野立てこもり4人殺害事件初公判》「部屋に盗聴器が仕掛けられ、いつでも悪口が聞こえてくる……」被告が語っていた事件前の“妄想”と父親の“悔恨”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン