感染が広がり始めた頃も、感染した人の行動を取り上げて「そんなことしてるからだ」と非難する最低な人たちが多数いました。感染者の家族が村八分になったり家に石を投げられたりしたという、あまりにも情けなさすぎる事件も各地で起きています。あれこれ尋ねるのは、家に石を投げる行為と情けなさにおいて五十歩百歩と言っていいでしょう。
ここまで感染が広がっている今となってはなおさら、何をしたから感染したという問題ではありません。忘れてはいけないのは、いちばん辛くて不安なのは感染した本人であり、感染した人は被害者だということ。感染者を悪者扱いすればするほど、微妙な症状を我慢したり感染を隠したりする人が増えて、結果的にウイルスを蔓延させることになります。
「じつは陽性だった」という連絡を受けたら、何はさておき「体調はどう?」と相手を気づかう言葉を返しましょう。さらに「辛いときに知らせてくれてありがとう」と感謝を伝えることも大切。「くれぐれもお大事に」と言いつつ、同僚なら「一日も早い復活を心待ちにしてるよ」、友人なら「また元気な顔が見られるのを楽しみにしてるよ」などと言って励ましたいところです。
もし相手から「こんなことになって申し訳ない」と謝罪の言葉があったら、即座に「謝る必要はないよ」と返すのが、大人としての務め。仕事に影響があったり心配させることになったりなど、本人が謝りたくなる気持ちはわかります。しかし、誰も感染したくてしたわけではありません。謝られて何も言わなかったら、謝罪を受け止めたことになります。「そんなふうに思わなくていいから」と、言葉で明確に否定しましょう。
「もしかしたら、うつっているかもしれない」と言われたときも、大切な踏ん張りどころ。何はさておき力強い口調で、根拠なく「大丈夫だよ!」と返しましょう。おそらく自分も経過観察や検査が必要になってくるだろうし、感染している可能性もあるわけですが、あくまでこっちの問題です。何を言っても相手を責めることにしかなりません。「大丈夫だから、今は治すことだけ考えて」と伝えるのが、大人の意地であり美学です。
各自が感染の防止に全力を尽くして医療の崩壊を防ぐとともに、さまざまな事態を想定しておくことで大人としてのモラルの崩壊も阻止しましょう。これもまた「コロナとの戦い」のひとつです。