◆核抑止力の完成
北朝鮮が核弾頭とICBMを完成させ、本当に核抑止力を完成させたのかどうかは検証のしようがないが、短距離弾道ミサイルの開発にシフトしていることを考慮すると、完成しているとみなして、北朝鮮と付き合っていくしかない。
「何も持たない小国」である北朝鮮が、「すべてを持つ超大国」である米国と共存するためには、抑止力を強化することで、両国間で緊張が高まっても戦争に発展させないことが最良の道なのだ。
戦争に発展させないためには、軍事活動を継続し、相手国を牽制し続け、なおかつ戦争が勃発した場合を想定して、敵が看過できないような大きなダメージを与えるだけの軍事力を常に整備しておかなければならない。
もちろん、核弾頭や弾道ミサイルの性能や数を含め、すべての面で北朝鮮の軍事力は米国の軍事力には遠く及ばない。しかし、北朝鮮は朝鮮戦争休戦以降、米軍を相手に数々の「危機」を作り出し、終息させてきた。
◆新型短距離弾道ミサイルの実験も開始
北朝鮮は2019年になってから新型の短距離弾道ミサイルの発射実験を続けてきた。在韓米軍や韓国軍、韓国の主要都市を攻撃可能な短距離弾道ミサイルの存在は、北朝鮮にとって抑止力として機能している。とくに韓国の主要都市は北朝鮮の人質となっている。
新型の短距離弾道ミサイルと並行して行われている新型の多連装ロケットの開発は、韓国と北朝鮮の境界線である非武装地帯(DMZ)付近に配備されている旧式の長距離砲や「スカッド」に代わり、より脅威度が高い新型の多連装ロケットと新型の弾道ミサイルへと変貌することを意味している。
北朝鮮はミサイルなどの軍事力を用いて強硬姿勢を取り続けなければ、米国に付け込む隙を与えてしまうことになるため、北朝鮮は常に国内外へ「反米」を叫び続け、米国と対決する姿勢を崩さない。2018年の史上初の米朝首脳会談を経ても、北朝鮮の態度が何も変わらなかったのは当然のことである。とはいえ、「現状維持」を続けることは、日本の安全保障にも悪影響を及ぼすことになる。
一触即発の状態に見えても全面戦争に発展させないのが北朝鮮の“やり口”である。そして、事の発端はすべて北朝鮮が意図的に作り出したものだった。これに対して米国は常に譲歩してきた。これは米国が「紳士的」だったわけではない。米国は報復攻撃の手段として核兵器の使用まで考えていたくらいだからだ(核兵器の使用が検討されたのは1968年の「プエブロ号事件」と1994年の「第1次核危機」)。