花緑は短い持ち時間の中、独自の台詞廻しを自由自在に入れ込んだ『つる』で大いに笑わせてくれた。花緑の『つる』は「落語の隠居も冗談を言う」がテーマで、隠居の描き方も楽しく、オッチョコチョイな八五郎も魅力的。八五郎が「つるの由来」をみんなに話したくて床屋に行く、という設定も秀逸だ。
「昔」を「二億年前」と解釈し、「白髪の老人」を「百八つの老人」、「はるか沖を」を「春か秋の」、「唐土」を「物干し」と聞き違えて披露した八五郎が再び隠居に聞きに行ったときの、二人の掛け合いのハジケた可笑しさに、僕は花緑の「古典の演者としての底力」を強烈に感じた。
三三も花緑も「前座噺も力のある演者が工夫をすればこんなに面白くなる」と示してくれた。これが「落語の上手さ」ということなのだ。新真打もぜひ肝に銘じてほしい。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。今年1月に最新刊『21世紀落語史』(光文社新書)を出版するなど著書多数。
※週刊ポスト2020年5月22・29日号