「殴られそうになったら先にパンチを食らわせなさい。殴る人は反省を知らないから。私もそう生きてきた。そうしたら誰もいじめず、寄り付きもしなかった」
セリは強気なだけのヒロインではない。
「自分の意思を持っていて好き勝手なことを言う女性ですが、人間関係はフェア。北朝鮮のおばさんたちとも最初はにらみ合って対立するけど、徐々に打ち解けて、好きなことを言い合っても憎めない関係性を築いていく姿に好感が持てます」(西森さん)
治部さんも「彼女はセレブだけれど共感できる」と言う。
「通常、お金持ちには共感しづらいのですが、セリは何でも手に入れたようで実は家族からの愛が欠落しています。一見成功していますが、内部に弱さを抱えた努力家なので、多くの人が自己投影できます。北朝鮮にいるときは無一文で人の家の食べ物をバンバン食べる図々しい人でしたが、物語の後半ではその恩返しとして、自分が築いてきた人脈と財力をフルに使ってジョンヒョクや中隊員を守り抜こうとする姿がカッコよかった」
名家出身のジョンヒョクとセリはともに立場があり、祖国を裏切るわけにはいかない。数々の偶然と運命によって出会ったふたりは心から愛し合いながらも、互いの無事を祈るがゆえに別れなければならない関係にある。
38度線を越えて「不時着」したふたりの恋愛は、別れを前提とするゆえにひたすら切なく、見る者の涙を誘う。
※女性セブン2020年6月4日号