幸か不幸か、義満は義嗣が「若宮」になって、まもなく急死した。宮廷は、王家の血続からはずれる将軍の野望を、おしとどめることができている。しかし、もう少し寿命がのびていれば、どうなったかはわからない。
ことの推移を、義満の人柄だけで説明することを、著者はさけている。室町幕府じたいの成り立ちが、三代将軍に朝廷との一体化を余儀なくさせた。その必然性も、くわしく論じている。朝廷の儀礼史と聞いて、心のおどらぬ人も多かろう。ただ、時どきの政治力学は、因習的であるべき儀式の形を、しばしばかえていく。そこから政治過程を読む仕事に、大きい可能性を感じた。
※週刊ポスト2020年6月5日号