さすがの貫禄

 例えば、家族の間に流れる独特の空気感。ハナの夫が亡くなって火葬場で遺体が焼かれている時に、「煙が出ていないけれど」「あれは水蒸気?」「煙が見えないなんて」と喪服姿の家族全員で煙突を見上げるショットは際立って個性的です。

 意味のない会話、どうでもいいような相づち、繰り返し、確認。筋を展開していくためにはムダであり、通常ならば省いてしまう言葉のはず。しかし、敢えてストーリーを「追うのではない」セリフの往復が空気感を作り出し、視聴者を惹き付ける。「あっちだろ」「こっちよ」と方角を指し示してみたり、食卓からエビオスらしき大瓶から錠剤を何粒もお茶で呑み込む様子を映したり。

 この空気感、どこかで見たことが……そう、小津安二郎監督の描いた「ザ・家族」のあの空気感に通じるものがあります。映画『小早川家の秋』をつい連想してしまったのはきっと私だけではないはず。その一方で、このドラマは一気にストーリーが展開するスリリングな時間も仕込んであり、緩急・メリハリが醍醐味です。

 正直、あまり期待していなかったけれど、つい引き込まれてしまうそんなドラマがあるから面白い。

 複数のドラマ作品を比較していて気付かされるのは、雰囲気や陰翳や奥行きを大切にした立体的な空間表現もあれば、芝居の書き割りのようにべたっと平板な背景もある、ということです。個人的には、丁寧に作り込まれた立体的な空間の中で演技する役者が見たい。なぜなら役者とは、筋を展開するためのコマではないから。三田佳子さんのように、水を得た魚として架空世界の中を自由に泳ぎ回る生き物のはずですから。

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