長谷川町子記念館で再現された”磯野家の食卓”(撮影/田中智久)

『サザエさん』のファンだったというエッセイストの中野翠さんは「長谷川さんのやりたいことをやり続けた精神こそ、いまふたたび大切にするべき」と指摘する。

「あの世代でずっと現役を貫くのは難しかったでしょうが、彼女はきょうだいに助けられながら好きなことをやり続けられた。だから、人生に悔いはなかったのではないでしょうか。いまの人、特に日本人は、周りの声や人間関係をいちばんに気にする人が多い。そういう中で自分を見失うこともあるでしょう。何が幸せかは本当に人それぞれ。結婚もせず子供も持たなくても、いちばん好きなことに没頭できた長谷川さんは幸せだったと思います。やりたいことをやった方がいい」

 町子さんが残した自伝的作品『サザエさんうちあけ話』はこんな一幕で終焉を迎える。

 貞子さんが認知症になったことを《一しょに昔話もできないなんて……もうお母さんはいないも同じだ……》と嘆く姉・毬子さんの肩を叩き、町子さんが笑顔で語りかける。

《キミ、なげきたもうな、すべてこの世はうたかただよ、絵のてんらん会でも見にいこう!》

 姉は「ウン、いこう いこう!!」と応じ、こんな言葉とともに作品は幕を閉じる。

《かくしてよそおいをこらした姉妹は、つかの間の楽しみをもとめ、まちにくり出すのでありました》

 うたかたの世を楽しく生き抜く術もまた、町子さんの遺作ではないか。

※女性セブン2020年10月22日号

変わりゆく母にも、町子さんは真摯に向き合った(『サザエさんうちあけ話』より)

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