自分に自信がない人間が、外に向けてどんな顔でごまかすのか、僕はよく知っている。ちょっと変わった個性的で面白い人を自己演出する。”ユニーク”という化粧でコーティングし、道化でいることが癖になっている人が、本当の自分を相手に伝えて表現することなど出来るわけがない。
「外見だけで完璧と言える?」
藤井の道化ぶりは、2回目の説教によって引導を渡されるまで続く。福田の故郷・沖縄で藤井は突然1on1デートの誘いを受ける。デート中にバラをもらえなければ脱落するシビアな催しだ。
外に置かれたソファーで2人きりの空間、福田は藤井に自分の理想像は何かと尋ねる。藤井は「イベントオーガナイザーとして楽しい空間を作りたい」と返答するが、「それはお仕事でしょ」とバチェレロッテは納得しない。芯の強さを求める福田に応戦できる言葉を持たない藤井の気持ちが痛いほどわかる。コチラはとっくの昔に自分なんか捨てているわけで……。福田が大切にしている自分というものが、道化ることで全てのことをネタと言って、やり過ごしてきた我々にはない。
続けて、福田は「私のことをどう見えている?」と藤井の目を見つめる。先ほどの問答でライフも削られ、思考力が弱っている画面の中の僕こと藤井は「すごい完璧な存在、キレイ、カワイイ、スタイル最高!」と余裕を繕う。キレイで人差し指、カワイイで中指、スタイル最高で薬指を立てた福田は「外見だけで完璧と言える?」と少しイライラ。2人の問答は更に繰り返されるが、受け答えは成立しない。結果、藤井はバラをもらえず脱落する。
ソファーから福田が去り、一人うなだれる藤井は真っ白になっていた。ホセ・メンドーサと戦った後のジョーに似ている。芯の強さ以前に芯がない日和見主義者である僕の分身・藤井はこうして灰になり、ネタとしてすべてをやり過ごすテクニックが通用しない強敵との戦いは終わった。まるで力を出し切った高校球児のように清々しく現れた敗戦後の藤井は、もっといい男になって戻ってくると宣言した。この言い方が最もウケると知っていて言っているのが、僕には手に取るように分かる。複雑なはずの本音を隠すことに我々は慣れすぎて、自分が実感していることをストレートに伝えることが出来ない。本当の思いそのものがどこかへ行ってしまったままだ。
自分=藤井なことから、藤井について長いこと言及をしてきたが、実は他の出演男性も大きくは変わらない。皆どこかしら至らない点があり、福田はそこを見逃さない。
しかし流石はバチェレロッテ、問いかける姿勢はどこか高貴だ。素朴だが中身がしっかりと詰まった質問をコチラの目をじっと見つめて、投げかける。視聴者は狼狽する男性陣を観て、自分を重ねるはずだ。そして、今まで逃げてきたことと対峙する。こういった機会が提供されることが、番組を視聴する意味である。僕らは「アナタは何者ですか?」と聞かれた際、仕事以外で自身を表現できる言葉を身につけなければいけない。つまり、『バチェロレッテ』は女性にどこか畏怖を感じてしまう臆病な男性の見本市である。ビビる男たちをまとめて見られる面白さに、藤井がいなくなっても続きが気になって見続けてしまうのだ。