──若手社員や部下ともじっくりとコミュニケーションをとるのが竹内さんの人材育成法なのですね。しかし、開発主査ともなると、さまざまな職種の人たちをまとめなければならず、大変ですね。
竹内:今回発売したMX-30のように1つの新車全体を取りまとめるような立場になると、販売やマーケティング部門との話し合いもありますし、コストや投資額を管理しているメンバーもいますので、なおさら聞く耳を持たなければいけません。
ですが、辛抱強く聞いたうえで、メンバーに少し余裕ができた時は、「やっぱりこれはやってほしい」と、ちゃっかり押し込むことは多いですね(笑い)。
もう1点、「難しい議論は大人数ではしない」というのも私流かもしれません。コミュニケーションはできるだけ小さなグループで、というのが持論です。
キーになる人と小さなグループで話をする。マネジメント層に対しても、大々的な会議でバーンと打ち上げるのではなく、社長や副社長、役員に「相談に乗ってほしい」と事前に話はしておきます。根回しというより、ジャッジしてほしい人たちにきちんと理解していただくことが大事で、重大な決断ほど時間をかける必要があると思っています。
――2011年には「MAZDA2」(旧デミオ)の性能開発を担当されましたが、当時の経験値で今に活きていることはありますか。
竹内:実は、MX-30を開発するにあたって、1つだけ当時の失敗を振り返った点があるんです。
MAZDA2はシートやペダルの操作性を相当造り込んできたのですが、このクルマはBセグメントに属するコンパクトカーで、比較的女性にも選んでいただきやすいクルマです。もちろん発売後は女性にも選んでいただけたのですが、「私はそんなに運転が得意でもないし、デザインが尖っているから、ちょっと気後れしちゃうわ」という声も結構いただき、結果的にはお求めいただけなかったお客様もいらっしゃったんです。
われわれとしては、こだわりを持ってシートもペダルもデザインも性能も造り込み、車格を超えたクルマに仕上げた自信作ですが、女性のお客様には少し引かれてしまったわけです。
今回のMX-30で、「わたしらしく生きる」というコンセプトを掲げたのは、その時の自戒や反省が私自身にもありまして、「このクルマいいでしょ、ぜひ味わってみて」と主張し過ぎるのではなく、デザインから走る・曲がる・止まる性能まで、すべてのハーモニーのバランスを最重要視して、評価をお客様に委ねました。
そういう余裕や懐の深さを、肩の力を抜いてこの商品で実現したいと思い、“自然体”を自分にも課すテーマにしました。SKYACTIV-Xのような最先端技術のエンジンではなく、敢えて2000ccのマイルドハイブリッドを用意したのも、トルクフルで力強い走りを前面に出さず、クルマの塊感や居心地のいい室内空間、プラスデザインと走りが最も調和されるクルマにしたかったからです。