池野さんが私のタブレット上で指差したのは家庭動物管理士の項目だ。池野さんの時代は家庭動物販売士と言った。合格率は80~90%で落とすための試験ではない。現在は半年以上の実務経験(かつ常勤)と各種資格のどれかひとつが必要になるが、実際のところ、いまでも容易なのは池野さんの言う通りだろう。
「とにかく言いたいことは、そんな程度でも命を販売する責任者になれるって国なんです。事前講習で答えをほとんど教えてくれる試験を受ければ1日で取れます」
あくまで池野さんの意見で、現在では少し難易度は上がっている。ここでは池野さんの話に合わせて家庭動物管理士についてのみ言及したが、愛玩動物飼養管理士というのもある。他にもペット関係の民間資格はたくさんある。これらの大半は先の「公平性及び専門性を持った団体」の資格として国のお墨付きを得ている。
「この業界で別格は獣医師だけです。極端なこと言うとペットショップで働くのに資格なんかいりません」
そう、結局のところ雇われてペットショップの店員をするだけなら何の資格もいらない。バイトでもなんでも、採用されれば誰でも命の販売員になれる。
「むしろ何も知らない若い子のほうが都合がいい。あとは割り切って仕事してくれるおばさんですね。古い世代の、お迎えのない子の末路なんか気にしないタイプの人です。犬好き猫好きは辞めますよ。そんなことない愛してるってベテランは嘘つきだと思います。それか、愛してるけど仕事だから苦しめてもいいっておかしな人ですね」
ミックス犬はホームセンターや田舎のモールで人気
池野さんの意見は感情に先走った極論の嫌いもあるが、あくまでビジネスと割り切る人だけが残るということは確かだろう。幼い犬や猫が狭いショーケースに入れられ、育つにつれてスーパーの見切り惣菜のように値下げされ、最後は利益度外視で「誰でもいいから持ってって」となる。しかしスーパーの惣菜は安ければ、食べられればいいという見切り目当ての客で売りさばけるが、犬や猫はそうはいかない。安ければ、飼えればいいなんて人はペットショップで購入する客では少数派だろう。漫画のようにブサイクな猫と運命的な出会いをする初老の紳士が現れてくれたら、そんな奇跡が年がら年中起これば別だろうが――。
「種類(筆者注:犬種・猫種)の好みはもちろん、柄や性格もいろいろですからね。お客さんがピンポイントに気にいる確率が低いのは当然です」