熱い想いやメッセージを紙に描きつけていく漫画の制作現場。多くの流行漫画家は共同作業で締め切りまでのサイクルを回す。
名前の出る作家は話を作り、セリフを作り、演出家としてコマ割りをして、命を込めて登場人物の顔や動きを描く。仕上げや背景は、アシスタントに任せていくのが通常だ。
その慣れたやり方を、大胆にも高橋はすべて変えた。普通は逆だ。漫画を作り出す速度を上げるならば、人を増やすべきではないのだろうか。
「変えようと思った。6人いたアシスタントをなくしたのは、……なんていうか、ふと気がつくと、クリエイティブのことよりも、チームの運営をどうしようかなと、そっちが気になっている男になっていたんですよ。50を過ぎると、人間が出来上がっているんで余計なことをしなくなるでしょ。失敗の法則を会得しているからね。
無茶もしなけりゃ、地雷も踏まなくなる。加えて、他人のせいにするのがどんどん上手くなってるから。そうすると成長したように思えちゃうしね。──そうやって完成した見事なスタイルがあるんだけれど、一通りだけの人生だと面白くない。俺は二通り目の人生も生きたいんですよ。それで、最初にいたずら書きをしていたときみたいに、ひとりになろう、としたんです」
ちょうど、その頃、縁があって「ビッグコミック」での連載が始まった。創刊50余年の老舗漫画雑誌だ。読者の年齢も高く、人としても漫画読みとしても成熟している客が相手になる。
高橋は、暖簾が変わったときに、「おっさんを描いていい雑誌だよね? 描かせてもらえるよね? と確認しました。これまではかっこいい男を描いてくれという注文が多かったからね。その縛りを外したところで、同世代に向けて作品が作れるのは楽しみだった」という。
いざ、新作『JUMBO MAX』(ジャンボマックス)のテーマに選んだのは……本能。街場の薬局の53歳のマジメおやじが、ひょんなことから幻のED薬に魅せられ、密造に手を染める物語だ。