「施設側の言い分もわかりますが、義父の面倒を見るために私は仕事に行けなくなりました。役所にも相談しましたが、こればかりはどうしようもないと言われてしまって。夫はホテル療養からすでに帰宅し、会社にも復帰したのですが、施設に問い合わせてもやはり『難しい』と。他の利用者やその家族から、強いクレームが入る、という理由もあるそうですが、一番の問題はスタッフ不足で、利用者を減らさないと施設の運営が回らないというのが本音のようでした」(本田さん)
通所型のデイサービスでこの状況なのだから、介護スタッフが利用者宅を訪れる「訪問介護」業界では、人不足はさらに深刻化している。
今年8月、介護報酬改定をめぐって開催されている審議会の資料として、厚生労働省は訪問介護職の有効求人倍率が2019年度は15.03倍にのぼったと報告した。2014年度は4.95倍なので、わずか5年で約3倍に上昇している。ちなみに、12月1日に厚生労働省が発表した10月の有効求人倍率は1.04倍だ。この異常な倍率の高さは介護に関わる者すべてに衝撃を与え、2020年の今はもっと深刻な状態になったと誰もが言う。
「昨年の業界の有効求人倍率が15倍、今年はさらにそれを上回るでしょう。要はほとんど人が来ないということです」
神奈川県内で訪問介護サービス事業を営む新川佳恵さん(仮名・50代)は、夏に報じられた数字を例に挙げて息をつく。新川さんの会社で働くスタッフ十数名のうち、およそ8割が60~70代の高齢者。初期高齢者や中期高齢者が後期高齢者の面倒を見る「老老介護」は家庭内だけでなく、すでに介護サービス業界でも起きている。慢性疾患を持つスタッフも少なくないため、感染してしまえば即「命に関わる」可能性があるという理由で、コロナ禍になって以降、約半数が辞職した。さらに、利用者側とのトラブルも頻発するようになり、スタッフたちを悩ませている。
「利用者さんからは、コロナを持ち込むから来るなと怒られ、ご家族さんからは『我慢してでも来て』と懇願されます。かと思えば、利用者のご家族が感染してしまい、濃厚接触者の疑いが残る利用者さんの介助をしにいかなければならなくなることも。これではますますスタッフは減る一方、介護の崩壊が始まっていると感じている事業者さんは多いでしょう」(新川さん)
では、業界を去ったスタッフたちが感染の心配が低い別の業界で仕事に従事しているかといえば、全く違う。年齢やスキル的な問題だけでなく、コロナ禍による不景気から、他業種への転職は絶望的だともいう。
介護業界は元来、人手不足、重労働、低賃金など数多くの問題が指摘されてきたが、コロナ禍によりさらに厳しい状況に追い込まれている。働き手が消え新規参入者もいないとなれば、取り残されるのは高齢者。介護の視点からも「ニューノーマル」という落とし所を見つけなければ、世界でもっとも早く「超高齢社会」に突入した我が国は、もっとも早く崩壊してしまうことになる。