〈青春とはすべて、かっこ悪いの上塗り〉とあるが、その共有者には既に亡くなった人も少なくなく、〈同窓会にも来なくていい〉〈でも、いてくれ。いなくならないでくれ〉と明子は思う。
「この中に青春のどっちがセイでシュンか、よく混乱する同級生が出てきますが、私は彼女の訃報を聞いた時、永遠だと思っていた足元がスポンと抜けた感じがしたんですよ。誰も欠けてない時間の尊さを思い知った。しかも最近はセコかったり図々しかったり、以前とは別種の恥ずかしい人によく会うんですね、60、70代の。つまり青春時代だけが恥ずかしいんじゃない、人間は死ぬまで迷惑をかけ、恥ずかしく生きていくんだなあと、これも今の歳になって思えたことの一つです」
〈悲しかったり腹がたったりしたことが、今は、「そういうものだわネ」とオカシくなる〉。確かに45年の歳月が、桜を見てただ〈満開だ〉とだけ思ったあの頃の愚かさも愛しさもありのままに享受させるのだとしたら、それは本当に素敵なことだ。
【プロフィール】
姫野カオルコ(ひめの・かおるこ)/1958年滋賀県生まれ。2014年『昭和の犬』で直木賞、2019年には東大生強制猥褻事件に着想した『彼女は頭が悪いから』で柴田錬三郎賞を受賞し、話題に。「前作が読者をいやな気持ちにさせる小説だったので、今回はいやな気持ちにさせない小説にしようと」。『受難』『ツ、イ、ラ、ク』『ハルカ・エイティ』『リアル・シンデレラ』『謎の毒親』の他、故郷に因んだエッセイ『忍びの滋賀~いつも京都の日陰で』等。趣味のジャズダンスのためにストレッチは欠かさない。164.8cm、AB型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2020年12月18日号