ビジネス

2020年にひっそりと消えたクルマたち なぜ切り捨てられたか

ジャーマンスリーを捉えられず
「レクサスGS」(トヨタ自動車)

 トヨタがレクサスを北米で展開したのは1989年。それから16年後に日本でレクサスを展開する際、トヨタはレクサスをメルセデスベンツ、BMW、アウディのプレミアム御三家、いわゆるジャーマンスリーのようなブランドに育てたいと考え、後輪駆動ベースのモデルを主軸にするようになった。

欧州でいうプレミアムEセグメントモデルのトヨタ「レクサスGS」

欧州でいうプレミアムEセグメントモデルのトヨタ「レクサスGS」(時事通信フォト)

 レクサスGSはその中軸になる全長5m級、欧州でいうところのプレミアムEセグメントモデル。第1世代、第2世代は日本では「アリスト」の名で売られたが、第3世代は「レクサスGS」としてレクサス日本展開の切り込み隊長役を担った。しかし、この第3世代は世界的にあまり評判が良くなく、アメリカでもこれはプレミアムにあらずと評された。

 その汚名返上を狙い、並々ならぬ力を注いで開発されたのが2011年に北米デビュー、2012年早々には日本にも登場した第4世代である。当時、開発責任者は「環境問題が厳しくなれば、Eセグメントはプレミアムの実質最高クラスになる。そこで勝てるクルマ作りを目指した」と意気込みを語っていた。現在のレクサスのアイデンティティマスクである「スピンドルグリル」が採用された第1号車でもある。

 だが、この第4世代も最後までジャーマンスリーをキャッチアップすることはできなかった。最重要マーケットであるアメリカの昨年の販売台数は3400台弱と、メルセデスベンツ「Eクラス」の10分の1にも届かない有り様であった。そしてついに2020年8月、GSは生産が終了し、廃版となった。

 昨今、トヨタは将来戦略を大きく組み直し、大胆な車種整理に乗り出している。次期レクサスGSを作るとすれば、下は「クラウン」から上は「レクサスLS」「レクサスLC」までを幅広く受け持つ「GA-L」と呼ばれる後輪駆動アーキテクチャで作ることになったであろう。

 だが、トヨタは正式発表していないものの、後輪駆動のクラウンも廃止するなど、後輪駆動のラインナップの大幅縮小に動いている。現在、レクサスのセダン系はレクサスLSとレクサスISが後輪駆動、その中間サイズのレクサスESが前輪駆動となっているが、つい最近のビッグマイナーチェンジで延命を図ったISも、後継は作られず、SUVなどに移行するものと考えられる。

 昨今、BMWが走りの質感を落とし気味になってしまっているなど、ジャーマンスリーも決して骨太の存在ではなくなりつつある。もし電動化ニーズの高まりがもう少し遅ければ、今度こそ勝負になるクルマを作れたかもしれない。

 そういう意味では、レクサスのジャーマンスリーへのチャレンジは少し遅かった。どんなに頑張っても時の運を得られなければ事は成らないということを思い起こさせられるドキュメントであった。

 2021年以降も日本、海外を問わず、大幅な車種構成の組み換えが続くであろう世界の自動車業界。だが、嘆くには及ばない。死にゆく者あれば生まれ出ずる者あり。新しい時代の流れをリードするようなクルマが次々に登場するはずだ。もしノスタルジックなクルマを保有したいという場合、機会を逃さず積極的に買いに走るのが吉というものだろう。

関連記事

トピックス

グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
民放ドラマ初主演の俳優・磯村勇斗
《ムッチ先輩から1年》磯村勇斗が32歳の今「民放ドラマ初主演」の理由 “特撮ヒーロー出身のイケメン俳優”から脱却も
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン